第二十九話 - また、会いたくはなかったけど。
それから検問の結果を待つ間
私達は基地の外の小さな街並みを見て回った。
泥の侵攻がなくなった結果
徐々に人が移り住んできているようで
砦の少し後ろの道路には
宿屋や簡素な食事屋、木材の加工所などが立ち並ぶ。
山にはハッキリと林道が見え、
黄色い土が露出した部分もあった。
「綺麗になりましたね…」
ズマスタさんは頷き、ポケットから何かを出した。
「今じゃ芋だけじゃなく、こんなクッキーまで簡単に拝める。
あのスープに付ける金属みたいなクラッカーじゃねぇ。
全く、あの頃の夜戦続きが嘘のようだな。」
…ん、カリッとしてて、悪くない。
ぱさぱさだな…でも少し香ばしい!
水につけて食べる鋼の様なパンから、間違いなく進化してる。
「3回夜戦があった時なんか
記憶が飛んじゃいましたから。
バーデンさんに休めって言われて…あ」
ミレーさんとバドレさんが目を見開いてこちらを見ていた。
…もしかして、半信半疑だったのかもしれない。
「僕たちは左砦の防衛だったけど
右はそんなに過酷だったのか…」
ミレーさんが呆然と呟いた。
そっか…あの時左は1500以上
右は150だったんだっけ。
実力者は左に招集されたけど、
ヌエッサン指揮官は右砦の周りの村と水源を守りたくて
それに私たちが手助けしたんだ。
「左の部隊には、ほんと感謝してるぜ。
後から入ってきた左砦の指揮官様が
装備と資源をたんまりくれたし…なあ?」
多分、嫌みも入ってるね…苦笑交じりに私も頷いた。
アレが無きゃ死んでたのもあって、同じ気持ち。
「こっちなんか、殆ど建築だったぜ…
実際途中までは、敵が来なかったしよ。
なんだよ、俺に戦わせてくれよ!!」
バドレさんがつまらなそうに地面を踏みつけ
空しく土埃が舞い上がった。
バルドさんとトルトル達は他の部隊の人とお話し中だ。
そんな中、一人の兵士が私達の元に走り、
膝に手を突きながら声を上げる。
「建内日葵さんですね。
例の訪問者ですが、詳しい情報の確認が取れました。
指揮官がお伝えしていた通り
ガーネス町の縁の下ギルドのあなたに会いに行く予定だそうです。
お会いになりますか。」
「えっ、わたし?」
冗談じゃなかったんだ…誰だろう。
「俺たちも付いていこう、何か変だ。」
兵士の案内の元、林道の前…検問所に私達は向かった。
木と土壁で出来た、簡素な建物…
その扉を開ける兵士の案内で、
二人に挟まれて中に入った。
そこに居たのはブロンドの髪、整った女性剣士。
…うっ…この人…
入ってきた私を見て、彼女は冗談交じりか剣を構えた。
その瞬間バドレさんに素早く私は突き飛ばされる。
ミレーさんが剣を抜き、女性剣士と睨みあった。
「…随分と一人に厳重になるのね。」
私もすぐに立って…妖気を足元に張り、更に距離を取る。
「もう分かったわ。」
女性剣士は剣を仕舞い、部屋の隅に放り投げる。
「私の剣筋、知っているはずだ。」
バドレに腕を掴まれつつも私の間合いまで飛び込んできたその人は…マレンシアだ。
私を2度も、暗殺しようとした人。
今の私じゃどう足掻いても勝てない。
「なんのこと?誰?」
「剣を抜いた瞬間、突き飛ばされるだけでなく
自ら距離を取った!
私の剣速を理解するゆえだろう!」
魔具と足具を使った、青い軌道の音速の剣技…
体が勝手に逃げてた!
「普通女の子なら、誰でも逃げるよ!?」
「…っつ…」
そんなマレンシアの肩を、ミレーさんが強く掴んだ。
「悪いが、俺たちを壁にして話し合ってくれ。
あと、なぜ建内日葵の名前を知っているか…教えてくれないか。」
間に入ってくれる。…心強い。
「貴国に居る人員からの情報で、
我々北連合が探していた人物に非常に近い者がいると連絡を受けた。」
マレンシアがちらりとこちらを見た。
私は全力で首を振る。
「一年ほど前、そいつに出会ったときは鎧越しで、顔も分からぬ状態だった。
だが少し会話し、聞いたそいつの生い立ちは覚えている。
殺害に失敗した後、そいつは平然とこう言ってきた。」
何を言ったんだっけ。
「私が力や権力の為、努力してきたと言った。
すると、そいつはこう言った。
ついこの間まで病弱で
少し動くだけで気持ち悪くって…と。」
そんなに詳しく話してたっけ…
「そんな状態で、知らない町で家族と離されて
でもね、私後ちょっとしたら殺される運命なんだ。
国にも…恩人にも私を殺す理由があるから。
だからね、亡者を倒して恩返しするの。
そして、皆に幸せを返して…せめて世の中を正してから
死のうと思ってる。
長生き出来たら、それが一番なんだけどね、えへへ。」
マレンシアは目を閉じて、
思い出した内容をそのままに語っている様だった。
らしくもなく、照れ笑いの真似をしていて可愛い。
そして、マレンシアは目を開けた。
「プロファイルで、先日当てはまった人物を
わざわざ警備していたニューフィールド北部から確かめに来たわけだ。
ガーネス町への最短ルートでな…建内日葵。」
えっ、あわわわわわ…先日?
先日の記事!
「勇者教の人に会って、感化されただけだよ…あはははは!」
なんか、バレたらまずい気がする!
ちょっと、どうしよう…!
「ははは…そういう事にしておいてやろう。
ただ私はエルドや奉松、フリトー、そして竜に
この接触の内容を伝えるだけだ。」
げ…
「エルドさんや奉松さん?…竜に?」
「そうだ、竜だ。
勇者が死んだという一点で気まずい関係になっていたからな。
それを理由にして竜の妨害を突破し、私も素早く移動できた。」
待って…それって!
「竜達に相談があるんです。
連れて行ってもらえませんか!?」
「…はぁ…」
呆れた…というようにマレンシアは首を振った。
「自白してるようなものだぞ…」
私は赤面し、しゃがみ込んだ。
「見ろよ…ガキだろ?
勇者として祭り上げるのは、やめてやらねえか?」
「オマエも共犯者になればいい、日葵、計画を話すか?」
バドレとミレーは平静だった。
余計、恥ずかしさが増した。




