第二十三話 - 境界(リミナル)に立つ英雄(ヒーロー)
馬車で去ったファンノッテは
オペランの屋敷前…偶然その姿を見て馬車を止めさせる。
「あら、オペラン…ごきげんよう。」
オペランは髪を撫で上げ、一礼した。
「ミスファンノッテ…お元気そうで何より。」
社交辞令も、いとおしく感じる。
ペースを戻さなければ。
こじ開けられた扉の鍵穴を、ガチャリと切り替えた。
「ええ、縁の下ギルドに行ってきたわ。
悪くないわね…貴方の言う通り。」
あの会話の後に悪く言うのは、人間難しいものね。
「…そうかい?建内日葵は居なかっただろう?
上級冒険者とケンカして、ここ二日入院中らしいからね。」
…入院中?
あり得ない…いやよく考えたら、制服が
少しだぶついていたような…まさか…
「ほんと面白いよねー。お互い合意の上だなんてさ。
全治一週間の怪我を負ってもねー」
”肝が冷える幸せを…”
私の中の常識が崩れ落ちた。
日葵…恐ろしい娘。
…
意識がハッキリしたころには、
もう私は病院だった。
「あ…皆さん。ありがとうございます。」
楽しくて、痛みなんて感じなかったのに
終わったら…激痛が…。
目が重くて、うー…
「日葵先輩?」
スノルー
「今は夜間で、もう全員帰りましたよ。
バルドさんは受付で寝てますけど。」
その言葉に驚き、周りを見た。
真っ暗だった。
「日葵先輩…やりましたね。
一歩前進ですよ。」
そんな太鼓持たなくても…
本気で、私を見習おうとしてる!?
いまさらスノルの異常性に気が付いた。
「どんな人の、心の底も見てしまうんですね。
手ごわかったでしょう。」
「え、何か聞いたの?」
二人だけで話してたのに…
「いいえ、先輩が満足そうな声をしてたので。」
これだけで分かるの!?
…手ごわいのは、スノルかもしれない。
「私と、同じだったから。
対話できない人も、いるよ。」
ただ暴力を目的に、ギルドに来た人は…
本当に無理だったから。
「同じの範囲が広すぎるんですよ。
…ほら、先輩はカッコよくて可愛くて
クールな熱血で、頭のいいガキで…
境界的じゃないですか。」
どんな誉め言葉?罵倒?罵倒?
「それに最後のほう、私おかしくなってた。
ファンノッテ様って、本心から思ってたし…」
言ってから、顔が熱くなる。
結婚相手、見繕えるわけないのに。
そんな未来を、本気で考えてたなんて。
「そんな状態でも私と真剣に
話してくれてたなんて。」
「それは…助かりましたね…」
「…やっぱり限界ギリギリで動くのはあんまりよくないんだね。」
でも優しくて、助かった。
「日葵先輩…まだ辛そうですね。
また明日、話しましょう。」
…助かる。
「じゃね。」
そして、日が昇った。
「おはようございます!日葵さん」
スノルの声に起きると…看護師さんがいた。
「朝の食事ですよ。食べれる?」
頷いて、体を僅かに傾けた。
そしてスープとパンの欠片を飲み込む。
「無茶しちゃったわね。
魔法本持ってきてもらえるように
頼んでみよっか!」
…一年前、似たような事を聞いたな。
この人の中では私…まだ魔法使いのお弟子さんなんだ。
明さん…
「そうしてもらえると、有難いです。
僕も日葵さんも腕も大分動きますし。
暇ですから。彼女の名前も。」
スノル―!
…でもよかった。
精霊との契約はしてないけど、
軽くて、溢れてる魔法なら周りの精霊が反応してくれる…
違和感はあるけど、学んでおいて損はないっか!
試しに祈ると、手に水が溜まった。
それを器に入れて、少し残ったスープをかき込んだ。
顔の骨が揺れるような、疲れと違和感。
それでも私は、先に進みたい。
そう言えば、レコンキスタはどうなったんだろう。
あのファンノッテさんが言ってたギルドの秘書…
何者なんだろう。
私が…元気なら…。
「包帯の確認の時間です。
運ぶよー」
すっと腰を上げて、私をギュンと持ち上げる看護師さんに
少し違和感…多分技術を感じて
私は世の中の広さに感動し、頬を寄せた。
息を吐きだすと、背中を伝い…
全身に虚脱感が走る。
”集会”間に合うのかな…
あくまで計画の一つ、間に合わなくても止めるんだ。
★境界からの独り言★
ありとあらゆる、境界線に立つ少女。
建内日葵…リミナルヒーロー。
成長途中で、いろんな面でどっちつかず。
ヒーローでもありヒロイン的な行動も根強い。
でも彼女は…いくつかの芯と経験によって辛うじて成り立ってる。
それが何かは、あえて言わない。
普段から沢山考えて、迷って、叱られて。
それでも譲れないもの、それがこべりついた、泥臭い拘りの表面なのかもね。
でも、スノル君…真似しちゃだめだよ…こわ。




