第二十一話 - 知らなきゃ始まらない、もっと知りたい!
あれから、私達は話し合い、ゆっくり休み
部屋が暑くなってきた…お昼ごろ…
「紫苑さん?」
病院で寝ていた私に魔具で呼び出しがあった。
「ノスタリア家の方が、夕方来るそうよ。」
その知らせを聞いて、私はバドレさんに抱えてもらって
許可を取って病室を抜け出した。
どうしても、直接話してみたかった。
…
縁の下ギルド、特別待合室…
知り合いの貴族に”リース”してもらった魔具や調度品が
室内を照らしている、素敵な空間だ。
少しこじんまりとしてはいるものの、ちゃんとした緑と黄色のカーペットが敷かれ
掃除は行き届いている。
キャロス、私、バドレ、バルド、ミレー…
それぞれの出入り口の警備と交渉役が出そろい
受け入れの準備が整った。
「日葵、分からなくなったら…俺に任せておけ。」
キャロスさんの言葉に頷いて、腿に置いた拳を握る。
いきなり、一番重要な仕掛け人との会談…
実力も準備も十分じゃない、それでも直接話したい。
服は…フレアンさんから借りた。
少し大きいけど頑張って整えたつもりだ。
時刻直前…キャロスさんが迎えに行く中、
ただ心を整え、待つ。
暫くして、そこに案内されてきたのは
青く爽やかな服を着た白い肌の貴婦人…
ファンノッテ・ノスタリアだった。
扇で体を扇ぎながら、自ら冷却魔法を発動させて。
白い霧を、纏っているようだった。
「遅れてしまいごめんあそばせ…
私の名前はファンノッテ・ノスタリア。
ノスタリア家を継いだ次期当主でございます。」
なんて優雅な…こんな人が…?
私を、何で。
「本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。」
二人で、頭を下げる。
私は真心で下げ続け、キャロスさんは話に戻る。
「本日はご要望と、ご見学でいらしたと伺っております。
ノスタリア様のような名家の方が、弊ギルドに
直接足を運ばれたこと、光栄に存じます。」
ミレーさんが綺麗で、安定したグラスにお水を入れて…さりげなく差し出した。
その時の貴婦人の、少しつまらなそうな顔…私にはそう見えた。
何で、そんな表情をしたのか…少しだけ分かった気がした。
「こちらは当ギルドの看板娘、建内日葵です。
本日はこの二人で、ご要望をお伺いさせて頂きます。」
私に視線が向くのを感じ、顔を上げた。
「建内日葵と申します。
本日はお互い、幸福になれる様…心を込めて
臨ませていただきます。」
お互いの幸せがいいのは、本心だけど挨拶としては変…
でもどうしても確かめたいことがあったから話した。
興味深そうに、瞳が光る。
私はそれに、笑顔を返した。…見逃さない。
何というか…知的だ…ずっと考えてるように見える…だって…
それに気づいたのか、彼女は深く…敢えて作るような笑いを
私に打ち返してきた。
瞳で頷きながら私はそのままの笑顔を返した。
言葉なしで話せるほど…ちゃんと私を見てくれてる。
高揚感と共に、痛みが引いていく。
「ではどうぞ…お掛けください。」
優雅に…腰掛ける様子を見て私も慎重に座り、
いったん僅かに目を離してから再び視線を向ける。
ノスタリア家の付き人…絵にかいたように健康的で
型の決まった若い男性が紙を配った。
片手にペンを…持ち、秘書として
全てを記録する面持ちで挑む。
「本題からお話しさせて頂きますわ。
レコンキスタにダンジョン依頼を融通して頂きたいの。
余韻が残っているものの、あそこは息も絶え絶え…
あなた方もお気になさっているのでは?」
自信が横顔から漏れて、流し目が私達を貫く。
一語一句を書き写しながら、キャロスさんの
最初の言葉を待つ…一瞬が…数秒に感じられた。
キャロスさんならどうするの…?
私なら…
「真に美しいご提案、感激いたしました。
ですが、この場でのご了承をすることは出来ません。」
ファンノッテが扇で口を隠す。
表情は見えない、でも…興味深そうにしていた。
「レコンキスタの新しい管理者であるレン・オーブライト、
彼の元に話を持ち込ませて頂きます。
彼の意思で決断し、対価を払い…そして政治家としての経験を踏む。
それこそが筋、そうでは御座いませんか?」
私、まだまだ甘いや。
「ほほほほほほほ!」
ファンノッテが甲高く嗤う、まるで見下すかのような目線を向けて。
私はそれに、真剣な眼差しを返す。
「私の提案はお役に立ちましたでしょう?
お互いを幸せに…であれば私にも何か
幸せを頂けますかしら?
日葵”ちゃん”」
私は純粋に、その言葉が遊んでいるようで笑顔を返した。
ああ…きっとこの人は…
「では…私の考える幸せをご提案させていただきます。
いいですか、管理人…」
キャロスさんは…頷いてくれた。
信じてくれたんだ、ありがとう。
でもごめん、無茶をする。
言葉遊びが好きなんだって、それを信じる。
「私がご提案させて頂きます幸せは…」
その途端、時間が極限まで引き延ばされる。
走馬灯…その中でファンノッテの真剣な眼差しが
まるで釘の様に光景を打ち止めていく。
私の人生経験、そのすべてを載せて。
ドクン。
心臓の音が響き、口が動いた。
「またの機会に、皆でお茶会をさせて頂けませんか?」
空気が止まり、冷える。
あり得ない提案、分かってる。
彼らの表情の曇りも、砂の一粒より細かく見えた。
「我々は未来に進みます。
たとえ陰謀に打ちのめされようと、
新たに交わす茶の一滴…それが
優美なる貴婦人と我々を融和に導いてくれる。
私の提案は…如何でしょうか。」
これが私のしあわせの魔法…
それを…失敗して見せたかった。
「何の事かしら。」
鋭い目で扇を口に当てる…厳しい声
本当に失敗したかもしれない。
それでも…
「失礼を承知で申し上げました。
この肝が冷える幸せを…共有頂けましたか?」
笑顔で…返した。
目を揺らしたファンノッテさんにすかさず目を合わせた。
こんなに私の肝が冷えてる、でも私は笑顔だよ。
私の頬を伝い、汗が流れる。
ファンノッテさん、想像して?
私の立場なら、何を考えてこんな発言をするのか?
…ちゃんと、面白い?
「ふふ…ちょっとは…面白かったわよ。
でもね…貴族社会は、一言一言が致命傷になるの。
そんな脇が甘い発言は…誰も見逃してくれないわよ。」
届いた…
ファン…ノッテさん…
人間だった…厳しいけど…ドキドキする。
「ご教示ありがとうございます。
私なりの政治のつもりで御座いました。
重きお言葉が身に染みる様です。」
でも食らいつくのは…厳しいよね。
ここまでの流れ…ファンノッテさん、すごく見事だったから。
「うちの日葵が失礼いたしました。
それでは次に私キャロス・ノードも
失礼を承知でお伺いいたします。
レコンキスタが勇者教・レジスタンスとの交渉を
どの様に行ったのかご存じでしょうか?」
ファンノッテは驚き、目を見開いた。
扇をプルプルと震わせて。
私も胸が高鳴った。
「我々は諦めません。
根からの悪意が無ければ話し合える。
そう信じております。
彼らを知り、悲劇を終わらせたい。
その参考のため、お伺いさせていただきたいのです。」
「あら…微笑ましい親子だこと。」
扇で顔を隠す彼女は幸せそうだった。
それは見下しで出来ていると思う。
でもそれでよかった。
良かった…
ファンノッテが私を見て驚いた顔になる。
「意味…分かってるわよね。」
ついホッとしちゃったかな、もちろん…
「分かっております、愚直で…愚鈍かもしれません。
それでも私は…あなたとお話をさせて頂きたい…
いえ…」
息を吸い、覚悟を決める。
「もっと知りたい、もっとしあわせを広げたい。
あなたとお話ししたい。
そのままの言葉で。」
心臓が凍るほどの痛みが貫いた。
きっと…同じだった。
私達、二人で…きっともっと、幸せになれるから。




