表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮崎灯台リライティング ―嫌われ公務員と五人のわがまま再建日誌―  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/40

第36話 理央、最後の赤ペン

 八月二十八日、夜十時。辰巳岬灯台の最上階。改修を終えた空間には、未だ塗料の香りが微かに残っていた。

  理央は一人、持参したクリップボードを膝に、照明に照らされた開館式の進行台本に赤ペンを走らせていた。

  「開会の辞、五分。市長挨拶、七分……七分は長いわね。三分に切るべき」

  無意識に口元が引き締まる。

  理央の隣には、ペットボトルのアイスティーと折りたたまれたチームの議事録が置かれている。そのすべてに付箋と赤ペンがびっしりと張られ、まるで戦場の地図のようだった。

  「私、本当に……面倒な人間よね」

  誰に言うでもない独白に、ふと静けさが返ってくる。

  灯台の窓越しに見えるのは、海と、潮崎市の夜景。

  無数の灯りの中に、たしかにこの場所も溶け込み始めていた。

  「……それでも、誰かが細部を守らなきゃ。光は、そう簡単には灯らないもの」

  最終稿に至る赤ペンの一筆を引き終え、理央は静かにボールペンをキャップで閉じる。

  そして立ち上がり、厚紙に綴じられた式次第を両手で掲げ、ひとつ息をつく。

  「よし。明日の朝、印刷入稿。午後にはリハーサル」

  その瞬間、背後の階段を誰かが上ってくる音がした。

  振り返ると、樹がヘルメットを小脇に抱えて、軽く手を挙げる。

  「もう帰ったかと思った」

  「最後の赤ペンよ。やっと終わった」

  理央は微笑み、赤ペンを樹に手渡す。

  「この灯台も、ようやく魂が入ったわね」

  「魂……?」

  「細部に魂が宿るって、あなたが昔言ってたのよ」

  思い出したように、樹が照れ笑いを浮かべる。

  「俺、そんなカッコいいこと言ったっけ」

  「言ったの。中三の夏、校内放送室の床で寝転んでたとき」

  静かに笑い合い、二人は窓の外を見た。

  灯台の先端に取り付けられた新しい投光器が、まだ明かりをともさないまま、夜の海を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ