第34話 プレオープン試写会
八月二十日、夕刻。辰巳岬の広場に白いスクリーンが張られた。
プロジェクターの映像チェックが終わると同時に、潮風に乗って人々が少しずつ集まり始めた。
「ほんとに来るんだな、こんな場所に。灯台の前で映画って、考えてみたらなかなか奇抜だろ?」
亮汰がポケットに手を突っ込みながら、映像確認を終えたノートPCを閉じる。
「奇抜さで人を呼ぶのはあんたの十八番でしょ」
理央が無造作に返しながら、手元の資料ファイルで来場者数を記録していた。
「ちなみに、今の時点で二十三人。目標は三十人。あと七人ね」
そのとき、ぽつんと空から小さな水滴が落ちてきた。
「……祐介、今のって」
「確認する」
祐介がスマホで気象アプリを開くと、すぐに眉をひそめた。
「予報より早い。降り始めは軽いけど、本降りになるのは二十分以内」
「テント、張るわよ!」
理央が即断し、亜梨沙と志歩が道具置き場へ走る。
「ライブ撮影中止か?」と亮汰が問えば、祐介は「ライブは諦めて記録映像に切り替え」と即答。
会場の雰囲気は、降り始めた雨により一瞬たじろいだが、やがて子どもたちの笑い声が戻ってきた。屋台で配られたかき氷が手のひらに冷たさを残している。
亮汰が再生ボタンを押すと、スクリーンに灯台の過去と今が映し出される。かつての荒れた外壁、足場を組む作業員、ドローンから捉えた夜明けの海。
「……あれ、私じゃん」
志歩が画面の自分を指さし、吹き出す。「ドローンにピースしてるし、ばっかみたい」
「いや、いい表情してたから使った。見てるやつ、安心すると思って」
亮汰の声は軽いが、視線は真剣だった。
「俺たちが何を守ろうとしてるか、ちゃんと見せたかったんだよな」
映像の最後、灯台に差し込む朝日と共に、白い文字が浮かぶ。
――「光は、つなぐためにある。」
その瞬間、テントの中に拍手が湧いた。雨音よりもはっきりと響く、小さな感動の証。
「次は……本番ね」
理央が息を吐いた。冷静なまま、でも確かに笑っていた。




