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潮崎灯台リライティング ―嫌われ公務員と五人のわがまま再建日誌―  作者: 乾為天女


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30/40

第30話 大城の最後通牒

 (01/02)

  七月二十五日、午前十時。潮崎市議会の第二委員会室。夏休みに入った市庁舎は子連れの見学者もちらほらいたが、この部屋だけは異様な静けさに包まれていた。

  委員席の中央、樹は背筋を伸ばして立っていた。隣には理央、後方には祐介と志歩が控えている。その視線の先、壇上に立つのは、リゾート開発会社「大城観光開発」社長・大城である。

  「本日お配りした資料に記載の通り、当社は辰巳岬の一帯に温泉施設・ホテル・マリンレジャー複合施設を含むリゾート開発計画を提案しております」

  大城の口調は一分の隙もなく、朗々と響いていた。

  「年間来訪者予測は六万人。地域経済への寄与は大きく、市としても将来性ある判断が求められます」

  市議たちは黙って資料に目を通していた。その厚みは灯台チームの提案書の倍以上。何より、提出元が“全国展開中の大手観光企業”という信頼感が後押ししていた。

  「ちなみに、本開発に伴い、現在放置されている灯台跡地は“安全上の理由”から撤去対象となります」

  その一言に、会場内がどよめいた。

  「待ってください」

  樹が即座に手を挙げ、声を張った。

  「その“放置”とは、我々の灯台再生活動のことですか?」

  「ええ、そうですね。ボランティアでやられているようですが、正式な事業体でも施工業者との契約も成立していない……それでは“再開発計画”とは呼べません」

  大城は冷たく言い切った。

  理央が前に出た。

  「契約書は現在締結準備中で、交付金も申請中です。市長との面談でも、六月末までに進捗報告を提出し、了承を得ています。私たちはただの有志団体ではありません」

  彼女の視線は書類ではなく、議員の目を見据えていた。

  大城が言葉を詰まらせた隙に、樹が重ねる。

  「観光資源とは、今ある歴史をどう未来に繋げるかです。辰巳岬の灯台は“ここに生きてきた人々の記憶”です。それを全て取り壊してしまって、本当に『持続的な地域活性』と言えますか?」

  会場の空気が揺れた。


 (02/02)

  そのとき、後方の傍聴席で何かが動いた。

  椅子を引く音のあと、立ち上がったのは、市長だった。

  「ご静聴ください」

  年配の男性議員が司会進行役として促すと、市長はゆっくりと壇に上がり、マイクの前に立った。

  「この件に関し、最終判断を行政がどう下すか、ご心配のことと思います。大城観光開発様の提案は、資料から見ても極めて整備されたものです。しかし……」

  市長は言葉を切った。

  「行政が果たすべきは“利益最大化”ではなく、“市民の未来への責任”だと私は思っています」

  樹たちは息をのんだ。

  「私がこの灯台再生活動に期待するのは、金額や集客数ではありません。彼らが行っているのは、地域に根ざした“物語の再建”なのです。

  私は来月の議会において、『岬地区の優先使用権を灯台再生活動団体へ与える』条例案を提出する予定です」

  議場が騒然となった。

  「それは市長権限を逸脱するのでは……」

  大城が口を開いたが、市長はそれを遮るように言った。

  「私は、市民と共に作る都市を選びたい。リゾートも大切でしょう。だが、それは“根を張る意思”がある人間によって支えられるべきです。皆さんは、辰巳岬に灯台が光を取り戻す意味を、どうお考えでしょうか」

  長い沈黙のあと、議員の一人が小さく拍手した。それが連鎖となり、やがて議場内に広がっていった。

  祐介は無言で拳を握った。志歩は目を潤ませながらスマホを握る。理央はいつものように資料を抱えながら、口元を少し緩めた。

  そして樹は、壇上の市長に深々と頭を下げた。

  「ありがとうございます。これが、“市民の光”になるよう、必ず実現させます」

  潮崎の夏は、熱を帯びながら、次の段階へと進みはじめていた。

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