第26話_クラファン最終日
6月30日、23時59分。
倉庫の壁に映されたプロジェクターのカウントダウンが、ついに最後の1分を示していた。
「残り9万3千円……っ!」
理央の声が、震えながらも正確に全体へ響く。
その場にいた全員の目が、画面に注がれていた。
亮汰は拳を握りしめ、声にならない叫びをこらえている。
志歩はスマホを手に、ひたすら何かを打ち続けていた。
「常連に連絡しまくってる。あとちょっと、って言えば、誰か動くかも」
そう言う彼女の顔には、あの気まぐれな笑みはなかった。
亜梨沙はノートと電卓を睨んでいたが、無言で頷いた。
「あと一件、一万円超えの入金がくれば、いける」
「来い……頼む」
祐介は画面を見つめたまま、小さく唇を動かしていた。
時計の秒針が進む音だけが、倉庫の空気を切っていた。
その時――
「入った!」
志歩のスマホが震えた。次の瞬間、プロジェクターに表示された数字が跳ね上がる。
【支援総額:2,000,850円】
【達成率:100.04%】
「いったぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
亮汰が絶叫した。
続いて志歩が歓声を上げ、理央がその場で膝をついて息を吐いた。
「……成功。プロジェクト成立、です」
「やった……!」
祐介が安堵の笑みを浮かべたその横で、亜梨沙がメモ帳を閉じる。
「明日朝から、資金移動と帳簿処理に入ります。みんな、少し寝てね」
彼女の声はあくまで実務的だったが、頬のゆるみが隠せていなかった。
倉庫の中で、誰かが拍手を始めた。
それは次第に大きくなり、全員が手を打ち鳴らしていた。
「これで、灯台、残せるんだよな」
樹の言葉に、誰もが頷いた。
そして、0時の鐘が鳴った。
7月が始まる。
灯台の、工事が始まる。
時計が0時を回った瞬間、倉庫の天井に貼られた蛍光灯が、ふっと一瞬だけ揺れた。
その揺れに気づいたのは、誰かの心が動いたせいだろうか。
樹は椅子に深く腰を沈めて、天井を仰いだ。
「……これで、ちゃんとスタートラインに立てたんだな」
誰にでもなく、ぽつりと漏らす。
理央は、黙ったまま机の上に置かれた進捗シートを指でなぞっていた。
「最初、無理だと思ってたのにね。……ここまで来るなんて」
「俺はイケると思ってた!」と、亮汰は満面の笑みで親指を立てた。
「だってさ、やるって言ったらやるじゃん? 俺たち!」
「その『俺たち』、つい最近まで半分解散状態だったんだけどね」
志歩があきれたように笑う。
「ま、それでも楽しかったけど。久々に、熱入った」
「……このあとも熱入るよ。施工管理、許認可確認、資金配分、細かい書類」
亜梨沙の冷静な声に、理央がふっと吹き出す。
「そこは、明日からにしようよ。今日は……」
「今日は、祝っていい日だな」
祐介のその言葉に、全員が無言で頷いた。
ひとつ、節目を越えたのだ。
その夜、全員が一度自宅に戻る前に、倉庫のシャッターをそっと閉めた。
鍵をかける樹の背中に、月の光が差していた。
その肩は、以前よりもわずかに――でも確かに、強く見えた。
灯台の未来へ、扉がひとつ、開いた。




