第25話_父からのメール
6月29日午前3時58分。
空がうっすらと白み始めるなか、祐介は河川敷をひとり歩いていた。
昨夜の電話は、思ったよりも静かに、しかし深く心に響いていた。
――「それが、お前の選んだ道か」
父の声は、記憶よりも年老いて聞こえた。
けれど、祐介の言葉を途中で遮ることはなかった。
――「それなら、もう俺の出る幕じゃない。だが……応援はする」
それだけで、十分だった。
風が少し強くなり、スラックスの裾を揺らす。
スマートフォンがバイブしたのは、ちょうどその時だった。
画面に表示されたのは、無骨な差出人名と、件名のないメール。
件名:
本文:
《100万円、さきほど振り込んだ。用途を明確にしろ。お前を信じる。》
文字は簡潔だった。句読点も少なく、口調はあくまで事務的。
けれど、それが祐介の胸を大きく打つ。
「……ありがとう、親父」
目の奥が熱くなった。
気づけば祐介は、川沿いのベンチに腰を下ろしていた。
誰もいない静かな朝。
遠くから、始発の電車が線路を走る音が聞こえてくる。
スニーカーのつま先で砂利を蹴りながら、祐介はスマホを取り出して、グループチャットに一言だけ書き込んだ。
《追加入金、100万円。あとで詳細共有します》
すぐに返信が続いた。
《え、まじで!? by亮汰》
《すごい……っ!やったね! by志歩》
《詳細と着金確認できたら帳簿に記載するね。 by亜梨沙》
《進行計画、更新する。祐介、ありがとう。 by理央》
《あと少しだな……!よく動いてくれた。 by樹》
画面の文字列が、朝の光に滲んだ。
誰かの期待を背負うのが怖かった日々。
誰かの役に立ちたいと願う気持ちが、ずっと空回っていた日々。
でも今は――違う。
祐介は立ち上がり、深呼吸をした。
空がもう少しで夜を明ける。
灯台のある岬も、やがてあの光の中に包まれるだろう。
「俺も、変わったよな」
父に、仲間に、そして自分に。
ようやく言える気がした。




