第23話_ネットでの批判と反論
6月25日、午後10時。
理央のワンルーム。薄暗い室内に、ノートパソコンの画面だけが青白く光っていた。
「……うん。来たわね、やっぱり」
クラウドファンディングを始めて3日。初日は応援コメントが目立ったが、今日になって一変した。
《地域振興っていうけど、雇用は?》
《図書館とか今さら誰が使うの?スマホで充分でしょ》
《ぶっちゃけ、リゾートホテルのほうが地元には得じゃね?》
画面を見ながら、理央は小さく鼻で笑った。
「よくもまあ、表面だけで判断できるもんね」
隣では、祐介が書類を束ねながら椅子にもたれている。
「批判されるのは想定内だろ?」
「もちろん。感情的になる気はないけど、“数字で返す”つもり」
理央は一つひとつ、コメントへの返信文をタイプし始めた。
《図書館とか今さら〜》というコメントには、
>「潮崎市には市立図書館が1館しかありません。アクセス困難な高齢者や児童には不便で、海沿いにもう1拠点できれば利便性が向上します」
《リゾートのほうが得では?》には、
>「当該開発は外資系によるもので、雇用は県外人材が中心。地域循環型経済にはつながりにくいと考えています」
「……言葉でぶつけ合うと、どうしても感情になる。でも、データと論理なら、相手が誰でも正面から行けるわ」
「まるで、理央らしい答え方だな」
祐介の声は、少しだけ安心しているように響いた。
そのとき、パソコンの画面が一度点滅し、新しいコメントが表示された。
《なんで今さら灯台?自己満?》
理央の指が一瞬止まった。
そのコメントは、どこか妙に鋭く、そして正直だった。
「……祐介」
「うん?」
「これ、私じゃなくて、樹が答えたほうがいいかも」
「了解。転送しとく」
そして数分後。
《コメントありがとうございます。確かに、自己満かもしれません。でも僕たちは、この町で“消えそうなもの”を誰かが拾い上げる経験を、次につなげたいと本気で思っています》
理央は、その返信を読み返し、ゆっくりと微笑んだ。
「……やっぱり、こういうのは彼にしか言えないのよね」
時計の針は、23時40分を回っていた。
支援金額は、じわりと71%に達していた。
理央は最後に、更新ボタンを押して、クラウドファンディングページの「活動報告」に一文を添えた。
>「私たちは、感情よりも事実を信じています。だから今日も、数字と根拠で、まっすぐ進みます」
潮崎の夜は、静かだった。
だが、画面の向こうでは、誰かがその文章を読み、支援ボタンに手を伸ばしていた。




