表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮崎灯台リライティング ―嫌われ公務員と五人のわがまま再建日誌―  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/40

第18話_説明会当日、熱気と動揺

 6月5日水曜日、午後6時。

 潮崎市立公民館・多目的室の会場には、定員を上回る人々が集まっていた。

 高齢の夫婦、学生服の女子二人組、スーツ姿の男性たち、そして地元の商店主たち。全員が、それぞれの思惑を胸に椅子に座っていた。

 「……予想よりずっと多い」

 受付係の亜梨沙が、配布資料の追加印刷分を抱えながら呟く。

 「外、立ち見も出てるよ。嬉しい悲鳴ってやつだな」

 亮汰が軽く笑ったが、その目も真剣だった。

 司会席に立った理央は、マイクを手に軽く深呼吸する。

 「皆さま、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。これより『辰巳岬灯台・地域再生構想』説明会を開催いたします」

 第一声で会場が静まる。

 祐介がPCのスライドを操作し、最初の画面「プロジェクト概要」が投影される。

 登壇したのは樹だった。スーツ姿で、背筋を伸ばし、少しだけ声に緊張が滲んでいる。

 「私たちは、この灯台を地域の光として再生する取り組みを進めております――」

 言葉はひとつずつ丁寧に、しかし確かに届いていた。

 スライドが進み、修繕工事の計画や許認可の進捗が示される。

 そして資金計画の説明に入ったところで――

 「――質問、いいか?」

 会場の中央付近で手を挙げたのは、スーツ姿の男。

 リゾート開発会社・大城の姿だった。

 「今、話された改修費の一部が“市の補助対象”とあるが、現状その承認は未確定と聞いている。未承認のまま説明するのは、市民を誤解させる行為ではないか?」

 ざわつく会場。

 樹が口を開こうとしたが、一瞬言葉に詰まる。

 「補助申請はすでに受理されており、審査中です。確定ではありませんが、その可能性も含めて説明しております」

 割って入ったのは理央だった。

 「……それに、万が一通らなかった場合の代替案もご用意しております。詳しくは次のスライドをご覧ください」

 場が静まり、次のページに切り替わる。

 そこには、クラウドファンディングや寄付金、地元企業からの協賛金プランが明記されていた。

 「……こちらは、協賛予定の地元企業数と想定寄付額の一覧です」

 理央の声は落ち着いていた。

 その背後で、祐介が手元の操作で該当スライドを映し出す。

 具体的な数値が並び、説明は事実と可能性の線上で進められていた。

 「とはいえ、補助金が通らないことを前提にした計画で、市民の安全や利便性は保たれるのか?」

 またも大城が問いかける。

 張り詰めた空気の中――

 「ちょっと、いいっすか?」

 亮汰が手を挙げて立ち上がった。

 会場がざわつく中、マイクを持って一歩前に出る。

 「俺、地元で映像とかイベントの仕事やってて、ここに関わってるんすけど……正直に言います。最初は、この計画、無理だと思ってました」

 「……」

 「でもね、灯台の中、見たことあります? めっちゃ暗くてボロボロで……それでも、あそこから見る海は、最高なんです」

 会場の一部がざわめき、笑いが漏れる。

 亮汰はマイクを握ったまま、ややぶっきらぼうに続けた。

 「そんで、俺たちがやってるのは、そんないい場所を“残したい”ってことっす。誰かのために。将来のために。もしそれが無駄だって言われたら、悔しいけど……やっぱ、やめません」

 拍手が起こった。

 彼の無謀な語り口が、場の硬さを溶かした。

 「亮汰……」

 志歩が驚きの声を漏らし、樹もまた、微笑を浮かべる。

 理央がその流れを引き継ぐように、資料の補足を続ける。

 「本日は、さまざまなご意見をいただけたことに感謝しております。この計画は、挑戦です。しかし、挑戦には準備が必要です」

 そして、最後のスライドが映し出された。

 〈2026年 春 灯台オープン予定〉

 〈地域と未来をつなぐ光へ〉

 説明が終わると、司会席へ戻った理央が深く頭を下げた。

 「本日は誠にありがとうございました」

 拍手が鳴り響く。

 大城は無言のまま腕を組み、会場を後にする。

 その背に、亜梨沙が静かに言った。

 「怖くないわ。慎重に進めてるから」

 夜。全員で会場を片づける手を止め、樹が一言。

 「……ありがとう。今日、俺ひとりだったら絶対持たなかった」

 「バカね。ひとりでやろうとしてたの、あんたでしょ」

 理央が皮肉を言いつつ、淡く笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ