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潮崎灯台リライティング ―嫌われ公務員と五人のわがまま再建日誌―  作者: 乾為天女


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第19話_市長への中間報告

 6月10日、潮崎市役所本庁舎・四階市長室。

 「……それで、6月末には最終計画を提出、ということでよろしいですね?」

 市長・花村の目は穏やかだが、その声は明確な圧力を帯びていた。

 「はい。資金計画と施工業者の確保、両方とも完了させて提出します」

 樹はまっすぐに市長の目を見て答えた。

 理央と祐介も、彼の両脇に立っていた。

 この日の報告は、最終判断の一歩手前に位置づけられていた。

 失敗すれば、灯台計画そのものが打ち切られる可能性もある。

 「一つ伺います。先日の説明会での市民の反応は、あなたの目にはどう映りましたか?」

 市長の質問に、樹は一瞬だけ息を吸った。

 「……賛否両論でした。しかし、最初の一歩としては、良い緊張感を持てたと思っています。反対意見は当然出るべきですし、それを聞いて修正しながら進める覚悟です」

 言葉を噛み締めるように返す。

 市長はゆっくりと頷いた。

 「現場を担う者の覚悟としては十分だと思います。ただし、議会対応、予算調整、施工の法的手続き……行政が担う負担も少なくありません。だからこそ、私も“覚悟”を持って判断します」

 室内の空気が一層引き締まった。

 「改めて言いましょう。あと一か月以内に、施工業者との契約予定と、資金の目処。どちらも“書面で”提出してください。それができれば、正式に市として承認を出します」

 理央が即座に確認を取るように言葉を重ねた。

 「提出様式と必要添付資料は、改めて文書で送っていただけますか? 内容に不備が出ると再提出のリスクがあるので」

 「もちろん。担当課に伝えておきます」

 市長は、少しだけ微笑んだ。

 会議室を出た瞬間、廊下の壁に背を預けるようにして、樹が息を吐く。

 「……あと一か月。マジで、時間ないな」

 「でも、道は見えてきた。あとは走るだけよ」

 理央はタブレットを手にスケジュールアプリを開いていた。

 「施工業者探しは明日から動こう。時間との戦いになる」

 祐介も冷静に確認事項を読み上げる。

 「県内の工務店をリストアップしてある。最初に行くべきは、――ここだな」

 6月11日朝8時30分。

 潮崎駅前のカフェで、樹たちはリストを広げて作戦会議を開いていた。

 「まずは、この三社。いずれも公共施設の施工実績があって、潮崎から日帰り圏内」

 祐介が地図アプリと併せて説明する。

 「スケジュール的に、今日中に回るなら、三件全部まわるのはギリギリね」

 理央が冷静に言うと、亮汰がカフェに飛び込んできた。

 「おっそーい、ごめん、寝坊した! でも車出すぞ、俺!」

 「いや、今回はちゃんと許可取ってまわるんだから、安全運転で頼むわよ」

 「へいへい、法定速度で飛ばしまーす」

 こうして、彼らの“業者交渉ツアー”が始まった。

 最初の工務店は、社長不在で空振り。

 二件目は「スケジュールがいっぱいでムリ」と即答された。

 三件目の『渚工務店』では、中年の男性社長が丁寧に対応してくれた。

 「……なるほど、灯台を地域の拠点に。おもしろい試みだ」

 「私たちは、ボランティアと市民の協力を前提にした再生活動を続けていまして。ですが、どうしても“安全”の部分だけはプロの手が必要です」

 樹が、背筋を伸ばして伝える。

 すると社長が手帳を開いてカレンダーを見た。

 「……タイミングとしては、正直キツい。でもなあ。あの灯台、俺も子どもの頃に遠足で行ったことがあってな」

 その言葉に、全員の顔が上がる。

 「正式な見積もりを出す前に、現地の下見は必要だな。……あした、空いてるぞ」

 「本当ですか……!助かります!」

 亮汰が大きく声を上げ、理央が慌てて肘で突く。

 「声がでかい」

 「いや、でもこれは声出すでしょ!」

 夕暮れ時の帰り道。

 車中で、誰もが疲れを滲ませながらも笑っていた。

 「やっと、“可能性”が“人”と結びついた気がするな」

 祐介が呟いたその言葉に、樹は小さく頷く。

 「うん。次の一歩は、現地視察……だな」

 外を見ると、辰巳岬の灯台が小さく見えていた。

 明日、あの白い塔が新たな工程を迎える。

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