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潮崎灯台リライティング ―嫌われ公務員と五人のわがまま再建日誌―  作者: 乾為天女


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第15話_灯台3D測量の日

 5月20日、月曜日の朝。辰巳岬には、少し肌寒い海風が吹いていた。

 灯台の根元に、中型のバンが一台停まり、そこから三脚やスキャナーが次々と降ろされていく。

 「よう、若いのらが立ち上げとるプロジェクトってのはここか?」

 渚工務店が紹介してくれた測量士・柳瀬が、にこりと笑って挨拶する。60代半ばだが、腰は伸びていて、目つきが鋭い。

 「はい。こちらが撮影班の亮汰。あとで全景のドローン映像と連携する予定です」

 祐介が紹介すると、柳瀬は軽く頭を下げて、作業に入った。

 「今日は3Dスキャナーで灯台全体をスキャンします。

 回転式レーザーで点群データを集めて、建物の寸法とゆがみを精密に把握するためです」

 「その点群データって、何に使えるんですか?」

 志歩が興味深そうに覗き込む。柳瀬はスキャナーを設置しながら答えた。

 「立面図の自動生成、劣化箇所の可視化、工事後の比較、まあ便利なもんだ。

 あと、そちらの兄ちゃんが撮ったドローン動画と合成すれば、3Dモデルもできる」

 「へぇ……」

 志歩がスマホを構え、測量の様子を撮影し始める。動画の構成素材に使えそうだと、すぐ判断していた。

 一方そのころ、亮汰は準備エリアから離れて、崖沿いの風の強い場所にドローンを持ち込んでいた。

 「行ける、今日なら撮れる……っ!」

 機体を立ち上げ、風速を確認しながらプロペラを回す。

 「亮汰、そっち風が強すぎる!」

 祐介の声が飛ぶ。

 「平気平気、むしろこの風の揺れが臨場感を……」

 その瞬間、突風が吹きつけた。

 「うわっ!」

 ドローンが傾き、制御不能になって海沿いの岩場に向かって急降下していく。

 「っ、待て……!」

 亮汰が全力で崖道を駆け出した。

 岩場へ駆け下りた亮汰は、ひざまで潮に濡れながらドローンを拾い上げた。

 プロペラは片方が折れ、レンズ部分に細かい砂が入り込んでいる。

 「うわー、やっちまった……」

 亮汰が頭をかかえていると、背後から足音が近づいた。

 「レンズは無事か?データカードだけでも確認する」

 祐介だった。

 「たぶん……まだ残ってるかも。さっき起動直後にバッファに入れてる分があるはず」

 亮汰が震える手でカバーを外し、メモリーカードを抜き取る。

 「持ち帰ってすぐ確認しよう。復元ソフトもある。最悪、データ構造から引っ張る」

 祐介がカードを受け取り、濡れないようシャツの内ポケットにしまった。

 一方、灯台の上では柳瀬が三脚ごとスキャナーの位置をずらし、次の角度の計測に移っていた。

 「こっちは順調だ。そっちの空撮は?」

 志歩が不安そうに見つめる中、祐介が言った。

 「ドローンが落ちた。けど、データはまだ望みがある。

 残りの俯瞰映像は別日に再撮影する。今日は地上データを優先しよう」

 「了解。私、灯台の足元からパノラマ素材拾っておく」

 志歩はすぐにスマホを構え、崖下を慎重に降りていった。

 その夜、祐介と亮汰は市内のパソコン工房でデータ復旧に取りかかり、柳瀬の事務所では3Dスキャンされた点群データがコンピュータ上に浮かび上がった。

 白と灰色の網状構造で描かれた灯台の全景。

 ひび割れ、傾斜、そして、そこに刻まれた長い時間の痕跡まで、データはすべて正確に語っていた。

 「……おまえの無謀さも、まあ今日はギリ許す」

 祐介が亮汰にぼそっと呟く。

 「へへ……ちょっと、攻めすぎたな」

 二人はそのまま、画面に再現された灯台の姿を見つめていた。

 修復の難しさと、それでも挑みたいという気持ちが、同じ静けさの中にあった。

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