表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
潮崎灯台リライティング ―嫌われ公務員と五人のわがまま再建日誌―  作者: 乾為天女


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/40

第12話_開発会社・大城の登場

 5月10日、金曜日。午後4時15分。

 潮崎市議会のロビーは、夕方とは思えぬざわつきを見せていた。

 スーツ姿の男たちが複数、資料の束を手に慌ただしく議員控室に出入りしている。

 その中央に、どっしりと構える一人の男がいた。

 大城玄人。

 西海リゾート開発株式会社の代表取締役。

 その名が市議会に現れたという情報は、瞬く間に行政関係者の耳へと届いていた。

 ──そして、それを偶然にも目撃したのが、樹だった。

 「……あの人、開発会社の……」

 市役所側から市議会ロビーに資料を届けに来た樹は、ガラス越しに大城の姿を見つけて立ち止まる。

 薄く笑いながら議員たちに資料を配る大城。

 その背後には、「辰巳岬統合開発基本案」と書かれた分厚い提案書が重ねられている。

 「統合開発……灯台まで、含まれてるってことか」

 息をのんだまま動けないでいると、大城がふとこちらに気づいた。

 にこりと笑う。が、その笑みに敵意も威圧もなかった。

 むしろ、“事務的な歓迎”のようにさえ見えた。

 「おや、ご関係の方かな?」

 樹は一瞬遅れて、頭を下げる。

 「……市役所の地域振興課です。資料の回収に」

 「それはご苦労さま。これから潮崎の未来を話すところですから、お互いがんばりましょう」

 軽い調子でそう言い残し、大城はロビーの奥へと消えていった。

 樹は拳を強く握りしめた。

 “彼らは本気だ。この街に“余白”なんて見ていない”

 このままでは、灯台が“観光リゾート施設”の一部に変わる未来が待っているかもしれない。

 その夜、樹は倉庫に仲間を集めた。

 ロビーで見たすべてを言葉にして伝えたあと、静かに言った。

 「これで、俺たちの“敵”が見えた」

 倉庫の空気は、いつになく重かった。

 亮汰が足を投げ出して座り込み、志歩は腕を組んで無言。祐介は白紙のメモ用紙を見つめたまま、動かない。

 亜梨沙だけが、静かに口を開いた。

 「……“統合開発”ってことは、あの灯台も解体予定に入ってると見ていいわね」

 「うん、間違いなく」

 樹が頷く。

 「市長が“6月末までに具体案を出せ”って言ってたのも、あの提案書との比較材料を出させる意図があったのかも」

 祐介が静かに補足した。

 「つまり俺たち、競争の土俵に正式に乗ったわけだ」

 亮汰がぼそりと呟いた。

 「……俺たちの企画、見せもんになってるってことかよ」

 「違う。勝負になってるってこと」

 理央が即座に切り返した。

 「リゾート案には雇用と観光の波及効果がある。けど、文化継承とか市民主体って観点は弱い。そこが私たちの勝機」

 「数字で勝てなくても、文脈で勝てる部分を明示するってことか」

 祐介が表を描きはじめる。

 「この状況、むしろチャンス。冷静に攻めましょう」

 理央の声には一点の揺らぎもなかった。

 樹はそんな彼女たちを見回して、思わず微笑む。

 「……敵がはっきり見えるって、案外ありがたいことなのかもな」

 「その代わり、甘い夢だけじゃ勝てないわよ」

 理央が鋭く釘を刺す。

 「“嫌われても信念を貫く”ってのが、今、試されてる」

 「望むところだ」

 と、樹はまっすぐに言った。

 雨の音が、倉庫のトタン屋根を静かに叩いていた。

 戦いの幕は、静かに、確実に上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ