噂とプレイヤー
~とあるNPCの剣士~
昨夜、大量の魔法使い達が村を襲撃してきた。
皆はパニックを起こして、あちこちに逃げ惑っていた。
俺は直ぐに魔法使い達と戦い始め、直ぐに仲間の二人も駆けつけた。
低い位置を飛んでいる奴は楽だが、上空を飛んでいる奴等が厄介だ。
仲間の一人は魔法使いなので、魔法を唱えて応戦するが、数が多すぎる。
皆を先に避難させるべきか。
そう思っていたら、凄い勢いで村に入ってきた奴が居た。
そいつは、片腕に子供を抱えていたのに、もう片方の手で武器を抜いて、魔法使いを一撃で倒してしまった。
俺等が何度も切り付けたり、魔法を当てたりしないと、倒せないのに一撃だと?!
俺が驚いている間に、奴は子供を下ろして、落ちていた箒を拾い、上空を飛んでいる魔法使いに物凄い勢いで投げつけた。
飛んでいた魔法使いの箒が壊れ、落下してくる。
「……あ、そうだよな。箒壊せばいいよな。」
仲間の魔法使いが呟いて、箒を狙って魔法を撃ち始めた。
俺達が魔法使いを二、三人倒している間に、奴は六、七人の魔法使いを倒している。
少ししたら、魔法使い達は引き上げて行った。
奴の側に駆け寄ってお礼を言うべきだ…。
そう思って駆け寄ろうとして、途中で足を止めた。
奴の頭上に、【といれっとぺーぱー】と表示されているのが見えたからだ。
奴はプレイヤーだ。プレイヤーの良い噂なんて聞いた事が無い。
「…屋内に取り残された人が居ないか、確認しに行くぞ。」
俺は踵を返して、まだ火の手があがっている家に向かった。
今朝、隣の家の親が泣きながら、息子を抱きしめて喜んでいた。
「エル!生きてたんだな!よく帰って来たな!」
「お帰りなさい!エル!」
行方不明になっていたエルが無事に帰ってきたようだ。
「もう、父さん、母さん、止めてよ。恥ずかしいって。」
エルが顔を真っ赤にして、両親から離れた。
「仕方ないだろう?魔法使いに連れ去られたのかと思ってたんだ。」
「そうよ。心配してたのよ。」
両親は再びエルを抱きしめようとするが、エルが素早く逃げてきた。
「見ての通り、僕は大丈夫だよ。」
俺の後ろから顔だけ出して両親に言った。
「エル。何処に行ってて、どうやって帰って来たんだ?」
俺は気になったので聞いてみた。
「【ガネリア】にいて、お兄ちゃんが連れて帰ってくれたんだ。」
「【ガネリア】に居たのか…、見つからないはずだ。」
エルが答え、父親が頷きながら言った。
「……お兄ちゃんって?」
「村に送ってくれた人で、プレイヤーだけど、凄く強くて、優しい人だよ。」
俺が聞くと、エルが笑顔で答えた。
プレイヤーだと?昨夜見た奴か…。
「プレイヤーだと?とっとと、村から出て行ってもらおう。」
「え?!何でだよ!」
俺が不機嫌に言うと、エルが驚いて大声を出した。
「騒動を起こされると困るからに決まってるだろうが。」
言いながら、避難所の方に向かって歩き始めた。
仲間の二人も歩き始め、エルが慌てて追って来た。
「だから、お兄ちゃんが助けてくれたんだって言ってるだろ!」
エルが怒りながら言った。
「本当か?プレイヤーの良い噂何て聞いた事が無いぞ?」
「そうだ。噂で聞いたが、NPCの俺等を斬り捨ててるんだろ?」
「エル、お前を送ったのだって、謝礼が目的なのかもしれないだろ。」
俺が言うと、仲間の二人が続いた。
「それは無いよ!お兄ちゃんは、護衛代要らないって言ってくれたよ!」
「どうだかな。」
エルが騙されているだけかもしれないしな。
「……そう言えば、プレイヤーでも良い奴が居るって噂が無かったか?」
「あ~、何かあったような気もするが……ちょっと覚えてないな。」
仲間の二人が言うが、俺は聞いた事が無い。
「そんな事、どうでもいいだろ!それより、早くプレイヤーを追い出しに行くぞ!」
「何でだよ!お兄ちゃんが居なかったら、魔法使い達も、怪我人もどうにもならかったのに!」
「それに対しての礼は言う。」
「そうだな。礼を言わなければ、何を要求してくるか分かったもんじゃない。」
「……もう、いいよ。お兄ちゃんと会えば、直ぐに解るだろうし。」
エルが首を横に振り、溜息を吐いた。
今いる所から見えないが、女性達の声が聞こえ、良い匂いがしてきた。
朝食の準備をしてくれている様だ。
角を曲がると、女性達に交じって料理をしている奴の姿が見えた。
俺達はそろって足を止め、その光景を見る。
女とも男とも取れる中性的な顔で、ニコニコしながら下拵えを手伝っている。
女性達も笑顔で、奴に下拵えを教えている。
……おかしい。噂では、プレイヤーは、極悪非道の固まりだと言われているのに。
この後、奴は俺等に朝食を勧めて来た。
席について朝食を食べるが、奴が気になり俺等はチラチラと奴を見ながら食べた。
広場に移動し、話し合いと怒鳴りあいがあった。
奴が神殿に行く事になり、先程エルに手を振って笑顔で出掛けて行った。
奴が強いのは見たので解ってるが…やはり、信用できない。
「俺達も向かっていいか?」
前に立って話をしていた男性、村長に確認した。
「ああ?お前等は戦えるんだから、食料の確保だろうが。」
「それは、そうだが…。あのプレイヤーが、本当に敵を倒しに行くと思うか?」
俺が言うと、朝食を作っていた女性達がズカズカと近づいた来た。
「あの人なら行くわよ。今朝のご飯の材料だって、あの人が使って下さいってくれたのよ?」
「食べた分くらいは、採って来るわよね?」
「うぐぅ、解ったよ。集めてくればいいんだろ。その代り、集めたら行くからな。」
「まあ、集めたら行ってもいいが…気をつけろよ?」
俺達は仕方なく食料を集めに出掛けた。
昼過ぎに、ある程度の食料を集め終わり、俺達は神殿に向かった。
神殿に入り、ホールを歩いていると、何時もなら魔法使い達が飛びだしてくる。
が、今回は、通路の扉が開いていて、魔法使い達は飛びだしてこなかった。
「一応、ここには来たみたいだな。」
「そうだな。」
建前が必要だし、一応ここには来たみたいだ。
「先に進むぞ。」
俺達は通路を進み始めた。
……おかしい。何時もなら、矢が飛んでくる罠が発動するのだが。
注意しながら進んでいるが、罠が一つも発動しない。
「…なあ、罠が無いのか?」
「それは無いだろ。何回、ここに来たと思ってるんだ?」
「だが、発動しないぞ?」
「……もしかしたら、アイツが、全部踏んだのか?」
「そうかも知れないな。通路に異常な量の、矢が落ちていたしな。」
「…全部踏むって、どれかけ運が無いんだ?」
確かに、通って来た道には異常な量の矢が散らばっていた。
全部踏んだのか?罠の配置は、大体がランダムなのに…。
「後、気付いていると思うが、魔法使い達も少なすぎるだろ。」
一人が言い、俺ともう一人の仲間が頷いた。
部屋に入れば、襲ってくるはずなのに、出て来ない所もある。
出て来ても、一人や二人だ。少なすぎる。
楽にボス前の扉が見える所に着いた。
「待てよ。ここには、ギロチンの罠があるだろ。」
「ああ、あれか。引っ掛かると、避けられないよな。」
「確か、目印に瓦礫を置いておいたよな?」
仲間の一人が引っ掛かって、命を失った罠だ。
二度と引っ掛からない様にと、目印に瓦礫を投げて置いた。
「ほら、あ…れ…?」
仲間が瓦礫を指差しながら、首を傾げた。
「どうした?」
「……罠って、一日で元に戻るよな?」
「ああ、常識だな。」
「あれ、発動してないか?」
仲間の言葉に驚き、慌てて床を見た。
確かに、床が凹んでいて罠が発動した事を示している。
「…あいつ、発動させたのか?でも、血が飛び散って無いって事は…避けたのか?アレを。」
俺が思わず呟くと、仲間の二人が顔を引きつらせた。
化け物なのか、アイツ…い、いや待てよ。
「そ、そうだ。アイツはプレイヤーだ。きっと頑丈なんだよ。」
「あ、ああ。そうだよな。」
「でも、この罠に引っ掛かって、退散したんだろ。」
「ああ、あるかも。」
「じゃあ。行くぞ。準備は良いな?」
俺が聞くと、二人はコクリと頷き、俺等は扉を思いっきり開けた。
部屋に入って目に入ったのは、赤色に染まった床と壁だった。
そして、赤い床には、この神殿のボスが二つに、頭と体にわかれた状態の物が転がっている。
「なっ!?倒されてるぞ?」
「じゃ、じゃあ、あのプレイヤーが?」
俺が驚いて言うと、仲間の一人が続いて言った。
「廊下にあった罠も殆ど無くなってたよな。」
もう一人の仲間が言い、唾を飲み込んだ。
「で、プレイヤーのアイツは何処行ったんだ?」
姿の見えないアイツを捜して、辺りを見回した。
まさか、ここのボスと、相討ちしたのか…?
そう思って捜していると、柱の陰で何かが動いたのが見えた。
近づいて行くと、アイツが吐いていた。
暫く背中を摩っていると、落ち着いたのかお礼を言われた。
「心配して来てくれたんですか?すみません、有難う御座います。」
プレイヤー、いや、といれっとぺーぱーが笑顔で言って、頭を下げて来た。
違うんだ。俺等は、いや、俺は、お前が来てないと疑ったんだ…。
多分、今俺は、微妙な笑みになっているだろう。
「元凶は倒せましたし、帰りましょう。」
といれっとぺーぱーが言い、俺等はそれぞれ微妙な返事をした。
村に帰ってから、何かお礼をと言ったが、といれっとぺーぱーは首を横に振って断った。
「だから言っただろ。お兄ちゃんは、凄く強くて優しいって。」
エルが胸を張って俺に言ってきた。
ああ、その通りだな。エル。疑って悪かったよ。
「お、おい、エル。何言ってるんだ?酒飲んだのか?未成年は酒飲んだらいけないんだぞ?」
といれっとぺーぱーが慌てた様子で、エルを捕まえて何か言っている。
夜に宴会が開かれ、大いに盛り上がった。
村の皆が笑顔で笑っているのを見て、といれっとぺーぱも幸せそうに笑っていた。
後日、といれっとぺーぱーと言う名のプレイヤーのアダナが、クロだと聞き。
NPCの間で噂になっている、良い方のプレイヤーだと言う事が解った。




