『デパーチャー』――
「シャワーはお客さんと自分の身体を、持参した殺菌消毒石鹸で洗うこと。間違っても(ホテルの)備え付け石鹸は使わないで。それと最後のシャワーではお客さんに先に出てもらって、気付かれないように、うがい薬で口を消毒すること。良いわね?」
「はい……」
と返事するしかない。
だって藍子店長は達弁且つ早口で「分かった?」「良いわね?」って問い掛けてくるんだから、こっちは「はい」と答えるしかなくないか?
講習が終わった後に何処まで脳裏に残っているのか心配。
暮れも押し迫った十二月下旬。今私がいるのは池袋内にあるホテルの一室。
当時十八歳だった私は、イメージクラブ<CLUB WOMAN>の面接を受け見事に合格。その後、藍子店長の講習を受けることになった。
後になって窺知したけど、藍子店長も昔イメクラでコンパニオンとして勤務していた経歴があるのだとか。
「あっ、それから「本番行為」はかなりのお客が要求してくるけど、それだけは絶対に止めて。言うまでもないけど、法律で禁止されてるし、最近は警察官がお客さんの振りして「本番」を要求してくる場合もあるから」
「OKしたら私も逮捕されちゃいますしね」
「そうよ。それどころかスタッフ全員の首が飛んじゃう。だから絶対に拒否って」
「はい。それは心得ています」
「なら良し! 後は……無理矢理に性器を入れたがる人がいるの。その人はブラック(リスト)に掲記して出禁にしてるんだけど、スタッフの手違いでサービスすることになったら、直ぐに知らせて。新規のお客さんでもそんな人がいたらどんな様子だったかを報告すること」
「分かりました……あのう、性病検査はどのくらいの間隔でやってるんですか」
やっと質問できたのがこれ。一番気になっていたことだから。
「検査は二週間に一回。自宅で検査物を採取して匿名で郵送できるのがあるから、うちはそれを使ってる。病気も怖いけど、避妊のために完全ゴム着でも一応ピルは服用しておいた方が良いわね」
「ピルですか……」
今更だけど、改めて肉体にリスクの伴う仕事なんだと自覚する。
「じゃあ講習はこの辺で終わり。全部は覚えきれなかっただろうけど、仕事しながら徐々に身に付けていって」
藍子店長は最後まで達弁且つ早口。何度も講習しているだろうし、台本が確り頭の中に入ってるんだろう。
私も全て頭のアーカイブに詰め込んだつもりだけど、店長の言うように仕事をしながら思い出し覚えて職能を上げていくしかない。
風俗店の講習だから、プレーを重点的に教えられるんだって思っていたけれど、プレーは男性スタッフを相手に基本的なフェラの仕方や身体の洗い方とかだけで、主に教えられたのは店の規則や消毒の仕方、接客の作法だった。
基本的なフェラの練習中、
「上手いな。何処で習ったの」
男性スタッフが訊く。
「内緒です」
適当に誤魔化した。




