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誕生

 講習の後は風俗嬢として初仕事。まだ体験入店の立場だけど、新人優先でお客を付けてもらえた。演じるのはブレザーの制服の女子高生。この前まで高校生だったから何の違和感もなく袖を通す。

「頑張っておいで」

 藍子店長に背中を押され、お店近くのホテルへ向かう。


 さっき講習で初めて人前でフェラをした時からそうだけど、緊張が極限に達しているせいか、頭は夢見心地で言動はしれっとしている自分がいる。この仕事が性に合ってるってこと? 一瞬思ったけどまだ速過ぎるか。

 ドアの前に立ち、深呼吸もせずにインターホンを押す。出てきたお客は三十前後で体型はスマート。服装はカジュアルだけど会社員っぽい。


「初めまして。夕起です」

 これが私の源氏名。講習前に藍子店長から付けて頂いた。由来はTRFのボーカル、YU―KIの本名、北村夕起からきている。何故かというと、店長がTRFのファンで拝借した、唯々それだけであり何の捻りもない――それだけの理由で? 正直思ったけど店長に対して否応など訴えられるはずもなく、ありがたく頂戴した。   

 それはさて置き――


 お客である眼前に立つ男性、ドアを開いた瞬間から私と目を合わせようともせず喋りもしない。お互いに緊張しているのは歴然。この人、風俗店初めてなんだな。とは思ったけど私も初めてのお客だし。

 だけど「女子高生」とは確り注文してくるんだね――

 でもせっかく女子高生に扮してきたのに、こんな状態でプレーに入っても気持ち良くなるわけがない。しかし人間の精神は良くできたもので、片方が極限に緊張していると悟るともう片方は冷静になってくる。


 この人の緊張をどうすればほぐしてあげられるんだろう。数秒考えて、

「こういうお店利用するの初めてなの?」

 フレンドリーな女子高生を演じることに決めた。

「初めて……」

 お客は微苦笑っぽいけどやっと表情が変化する。

「大丈夫だよ。私が数分で気持ち良くさせてみせるから」

「それは楽しみだなあ……」

 やっぱり微苦笑。それとも空笑いか?

 お客は一瞬笑顔を見せるものの、直ぐに真顔、無言に逆戻り。こんな調子で満足してくれるかなあ――不安になってきつつもサービス開始。シャワーを浴びていざベッドへ。


 お客に変化が表れたのは騎乗位でお尻素股をやっている時。お客が本心の言葉を発した。といっても「あー……」という只の喘ぎ声なんだけど――

 お尻素股は騎乗位で男性器をお尻に擦り付けて刺激するプレー。お客から見ると性器が見えないので本当に挿入しているかのような視覚的錯覚も加わって、強い快感を得ることができるのだとか。

「これ気持ち良い?」

「うん。凄く良いよ」

 良かった。さっき習っといて。お客は気持ち良いんだろうけど、私は何と表現したら良いのやら――お尻の割れ目に男性の「モノ」を擦り付けるなんて当然初めて。むず痒いというのか快感というのか、どちらの感情も不完全燃焼だ。

 まあ、私の場合は仕事。気持ち良くなるのはお客だけで良い。


 一回の喘ぎ声で吹っ切れたのだろう。その後お客は最後まで喘ぎっぱなし。表情も柔らかくなった。

 そして、サービスが終わると――

「今日は勉強になったよ」

「えっ? イメクラに勉強しにきたの?」

「実はオレ、三十間際でSEXの経験がほとんどなくてさ。彼女はいるんだけど自分の「技術」に自信が持てなくて、それでネットで色々調べてイメクラに決めたんだよ」

「そうだったんだ。SEXの勉強がしたいんならシチュエーションを決めるイメクラより、疑似恋愛ができるデリヘルの方がためになる気がするんだけど」

「それも考えたんだけど、オレ、コスプレが好きなんだよ」

 なるほど。自信はなくても理想は確りもってるわけね。


「最初は年上の人に教えてもらおうと思ったんだけど、やっぱりかわいい子が良いなって思うようになってさ、それで手馴れてる子よりも一緒に学んでいける子が良いと思ったから、お店の人に夕起ちゃんを紹介されて、写真を見て即答でOKしちゃった」

「へえ。それはありがとうございます」


 つまり、新人でプレーは拙劣だけど、写真を見てルックスはまあまあだから私で良かったっていうことだね。お客の理想にあって満足してもらえたことは嬉しいけど、反面、何かムカつく。もう風俗嬢としてのプライドが生起した。絶対に短期間で拙劣から熟練の状態になってやる! 強く誓ってお客と別れた。


 この日の仕事はこれで終了。六十分で指名料を入れて日払いで二万四千円を手にした。 

 今日は渋谷文夏から風俗嬢、夕起が誕生した記念すべき日。思えばここまで敢然とするまで、私は落ちるとこまで落ちた人間だった……。


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