嫌々
こちらは<レッドマウンテン>――
「中山君、映画の脚本書いてみる気ない?」
オフィスエリアで番組のホンを書いていたオレに、陣内社長は意味深な笑みを浮かべて言い寄ってくる。
「ありません」
即答。
「またそんな消極的なこと言って!」
社長から『パシン!』と右肩を叩かれた。
「だって本当にそんな気ないんですもん。それに時間だってありませんし」
「時間は作ればあるの! うちの稼ぎ頭が弱気なこと言ってもらっちゃ困るね。作家をやりながら小説書いた人もいるじゃない」
陣内社長はジロッと睨みつける。
「それはベテランの人達じゃないですか。何でオレみたいな若手に?」
「夕起からのご指名だからです。彼女の『デパーチャー』が映画化されるんだって」
社長はニンマリ。陣内社長と夕起さんは中学からの親友だ。
「それは知ってますけど……」
社長のペースに押され訥弁になっていく。
「さっき多部君からオファーがあってね。夕起達ての仕事なんだよ」
そういや多部の会社も映画制作に携わるんだっけ。オレがそう思っていると、
「多部君は「あいつ狼狽すると思いますけど」って笑ってたけどね」
あいつめ……いつか殺してやる。
「ね? 夕起の希望なんだから書いてあげてよ」
陣内社長は優しく言うが、「うーん……」脚本の仕事は是が非でも避けたい。が――
「私、もうオファーを承諾しちゃったから」
「えっ!? オレには何も言わずに?」
「中山君は急に仕事をオファーした方が躍起になってやるんでしょ?」
またそれか……。友人のディレクターでは有名な話。
「分かりましたよ。書きますよ、書けば良いんでしょう」
「ほんと! じゃあ期待してるよ、映画」
出た。陣内社長の欣欣然。
そんな顔されたら仕方がない。でもオレより適任者がいると思うんだけど。
後は簡単ではないが、もう一度『デパーチャー』を熟読しながら事務所のデスク、自宅マンションで脚本を書き始めた。テレビ局のスタッフルームで書くと、また新たな仕事を依頼される「危険」があるから――




