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風俗嬢はつらいよ

 浩子を捩じ伏せたことで、私は本格的に風俗嬢としての道を歩み始めた。

 OLやアニメキャラを演じ切るため、新聞・雑誌・DVDに目を通して勉強する日々。

 特にA系(アキバ系)のお客は自分が好むコンパニオンには多額の出費も厭わない傾向が強く、調子に乗らせないように注意すれば太客(頻繁に来店する客)に成り得る存在。 だからアニメキャラの決め台詞を習得したり声優の声色を真似るのは必須だ。


 『けいおん!』や『緋弾のアリア』などのアニメのDVDを観て鏡に向かってポーズをとりながら決め台詞を何十回と連呼し、その後は新聞に隅々まで目を通す。ふと我に返ると何処に向かっているのやらと自分を鼻で嗤ってしまうけれど、これがイメクラ嬢の仕事なのである。



「私今日、うがいを十回以上はやってると思う」

 エリカが両手を口に当て口臭をチェックする。

「色んな人とディープキスしたり「モノ」を銜えるから仕方ないよね」

 あゆはそう言って吸煙機のある場所にいきタバコに火を点けた。

「始める前は精神的に辛いと思ってたけど、結構肉体的にもくる仕事だよね」

 風俗はメンタル面だけじゃなくフィジカル的にもストレスが溜まる職業なのだと、初日で思い知った。


 <CLUB WOMAN>の待機室。

 入店して直ぐ仲良くなった大学生のあゆとエリカとお茶(客が付いていない状態)している間に愚痴り合う。

 ちなみにあゆは私よりも二つ上で四ヶ月前に、エリカは一つ上で二ヶ月前に入店しているけど、二人共、先輩風を吹かせるわけでもなく、フレンドリーでありがたい存在だ。

「私なんか(深夜)一時過ぎに帰宅して一杯飲んだら直ぐにバタンキューだもん」

「エリカも人気あるからね。私達って酒とタバコに救われてるとこ大だよね」

「確かに、その二つがなかったらもう辞めてるかも」

 あゆは鼻を鳴らして苦笑する。

「ああ、もう早くバタンキューしたい!」

 エリカがテーブルに両手を伸ばして突っ伏す。「バタンキュー」。私達の世代では古いワードな気がするけど、口には出すまい。


「その前にお肌のケアーとかしとかないとじゃない? 一日に十回もシャワー浴びるんだから肌カッサカサでしょ?」

「あゆに言われなかったら忘れるとこだった。ボディーローション塗りたくっとかなきゃ。あれも時間掛かるんだよねえ」

 エリカは突っ伏したままで面倒臭そうな口振り。

「かなりお疲れなんだね」

「夕起もその内分かるよ。カッサカサの日々がさ」

「もう体験してるんだけど」

「まだまだ甘い。そんなもんじゃないから、カッサカサの日々は」

 あゆは子細ありげににやつく。


 私はまだ一日に十回のシャワーはないけれど、お客に対してはちゃんと気を遣っている。髪が濡れていて前に別のお客の相手をしたと気付かれると嫌がられるから、乾かす暇がない時は髪を結んで濡れていることを隠す。飽く迄、「今日最初のお客様」だと嘘を付くのだ。これが意外と大変。

 ついでにいうなら、ホテルを出て次のお客と鉢合わせしないようにするのも結構大変。


「カッサカサだけならまだ良い方だよ。ピストン行為の繰り返しで腰痛になることもあるんだから」

「あゆはもう患ってるみたいだね」

 さっきから左拳で腰を『トントン』叩いてばかりいる。

「私も最近になって痛くなってきたんだよね」

 エリカがやっと顔を上げ、ソファに座ったまま両手で腰を摩る。


「あなた達は腰だけだからまだ良いわよ。私なんかフェラのし過ぎで顎も痛い」

 私達から離れて座っていた先輩のちあきさんが右手で顎を摩った。

「身体の故障が多い仕事なんですね」

 としか返しようがない。私も気を付けないと……今更だけど、随分な業界に足を踏み込んでしまったかも――

「性器も相当鍛えられたかもね。連続出勤すると擦れて痛いし」

「へえ、そうなんですか」

 としか返しようなくない? 自分に待ってる未来を考えて憂鬱になる。


「私、ここに入る前にソープにいたんだけど、マットもかなり疲れるんだよねえ。不安定なヌルヌルの上で全身使うからさ。おまけに準備も片付けも面倒なんだよ。だからマット嫌いなお客が相手だと楽だったなあ」

 ちあきさんの向かいに座るじゅん子さんも割り込んできて、しみじみとした口振り。


「脅すつもりはないけれど、覚悟はしといた方が良いわよ」

 ちあきさんの微笑み、なんか怖い。風俗嬢の宿命の「職業病」なんだろうけど、十分脅しになっています――


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