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彼女の企み

 十九歳になり、夜になると秋声も聞こえてくる九月中旬のことだった。

『ねえ文夏、一緒にマンション借りてシェアしない?』

「どうしたの唐突に?」

 秋美の声は真剣。たまに電話をくれたらこの提案。嬉しいような面食らったような――

『だって文夏、まだ立川の実家から池袋まで通ってるんでしょ? 片道何分だったっけ?』

「四十二分。遠いっちゃ遠いね」

『でしょう。今は早番だけだろうけど、都心に移ったら遅番もできるようになるじゃん』

「まあそれはそうなんだけど、家賃はどうするの?」

『私も大学入ってデリデリバリーヘルスやってるから、二人で折半したら何とかなるっしょ?』

「折半かあ……」


 それよりも、秋美が某大学法学部に通うようになってからデリヘルのアルバイトをやっていることを失念していた。確か源氏名は「みやび」のままだったっけ――

 大学生も「親に負担を掛けさせないように」や、学費と生活費を賄うため、風俗やキャバクラでバイトする子も多い世の中だ。勿論、秋美もその一人。


『渋谷の本町に2DKの良いマンションを見付けたの。どうかな?』

「私は別に良いけど、どうしてそんなに積極的なの? 何かあった?」

『別に何もないよ。大学の友達に小学生の頃からの友達とシェアしてる子がいて、その子が友達と住むのは楽しいって言ってたから、文夏と私だったらどうなるのかなって思って』

「なるほどね。そんな理由か」


 絶対それだけじゃない。友達のことは単なる建前で、本音は別にあるはず。

「分かった。そこまで言ってくれるんなら一緒に住もう。私も断る理由ないし」

『良かったあ。じゃあ決まりね』

 秋美は嬉しいというより安堵したような口振り。それも何か引っ掛かる。


 まあその問題は後で解決させるとして、私は十四年間お世話になった祖父母の家を出ることになった。

 秋美とシェアするマンションは、彼女が電話で言っていた渋谷区本町の賃貸マンションで、家賃は九万七千円。二人の収入なら何とかなるだろうとは思う。

 二人で不動産屋へ行って契約を済ませ、引っ越し業者を利用してマンションに荷物を運び込んでもらう。


 引っ越しを終え、その後に色々な調度品を購入しに行った帰りの電車内で、

「改めてこれから宜しくね」

 秋美に破顔した顔を向けられた。

「こちらこそ宜しく。あのさ、差し支えなかったら訊いても良い?」

「何、急に?」

「私と急にシェアしたいって言い出した本当の理由だよ」

 いたずらっぽい笑みを浮かべ、それでいて低音で訊いてみる。


「やっぱり気になった?」

「友達が楽しいって言ってるだけで始められるものじゃなくない?」

「実は私、大学に入ったら実家を出ようと思ってたんだけど、うちの両親厳しいじゃん? だからなかなか許可が下りなくて」

「実家も大学も都心だし、まだ学生だったら尚更だろうね」

「そうなの。だから文夏とシェアするって言って捩じ伏せちゃった」

 秋美はまた破顔一笑。私とシェアすると懇願すれば許可が下りる。そう見込んでの安堵の口振りだったのだ。


 しかし、両親が厳しい彼女に風俗店でアルバイトをさせたんだな私は……。今のデリヘルは何と説明しているのだろう?

「要するに私を利用したってわけね」

 にやついて言ってみると、「ごめん」とにやついて返された。


「でも何で実家を出ようと思ったの?」

「大学生になったら独り暮らしって憧れるじゃん」

「二人暮らしだけどね」

 やっぱ単純な羨望で利用されたか――


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