34-商談のお時間です?
市場で買い食いをして。
店を回って、冷やかしたり、値切ったり。
いろんなところに突撃しそうになるカイの手や首根っこやらを捕まえながら、街を歩いた。
一周してまた味を気に入ったカイと「あたしも!」となったマリナさんに、肉串をおごらされまくった翌々日。
マリナさんとおまけのカイが、研究塔にやってきた。
俺は、中一日を、研究塔内の観測→記録ルーティンに費やし、夜になってやっと、持ってきてもらった資料をまとめなおしたり、ネタ帳読みかえしてたりしてたら、もう朝でした。
ヤバい。研究塔の自主的ブラック環境に、染まりつつあるのかも…。
そんな訳で、ちょっと仮眠しただけなので、現在、寝不足です。
「レイ兄!」
「研究塔、初めて入ったわ。あたし。」
今日は、さすがに突撃されなくてすみました。良かった。
ヘロヘロしてるから、倒れて頭打っちゃう可能性あるからね。ホント。
マリナさん、実は、学園に通ったことがあったんだって。辺境の代表として推薦されたらしい。
初めて聞いた。
「一年間だけ通った」そうだけど、あれ?学園って、三年間あるんじゃないの?
「ある種の飛び級ね。自主的な。」
…はい、肌に合わなかったんですね。貴族的なやつと。
それはなんとなくわかる気がします。
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応接室。
財務担当のアルフォンスさんが、帳簿らしきものを開いた。
アルフォンスさんって、婿養子で商家から貴族家に入って、領地経営を赤字から黒字にした凄腕なんだって。で、その手腕を見込まれて、研究塔にヘッドハントされたんだって。超有能。
「色なしの魔獣核に、市場価格はありません。」
「ですよね。」
「ですので、研究材料としての価格で処理します。」
「え?」
「ベルトラン様からは、今後の継続使用を考慮して、供給契約を結ぶようにと指示がありました。」
供給契約?継続使用?
「クズ石よ?タダでも引き取り手のない石よ。」
驚くマリナさん。
そうだよねぇ。俺もそう思う。
俺は、ちょこちょこ動き回るカイを追いながら、話を聞く。…やめて、高そうな花瓶触るのヤメて。
「市場では価値がなくとも、研究塔では需要があると聞いています。」
「そう、ですね。」
研究協力者としての俺に向かって、アルフォンスさんが聞いてきた。
それはそう。今、絶賛実証実験中だからね。
でも、それは一時的なものなんじゃないの?
「研究塔での実証実験がひと通り終わったら、次は試験運用があります。」
「…もう、そこまで考えてるんですか。」
「必要数が増えるという見通しを立てていましたが。」
「でも、」
そんな、大がかりになるの?この研究。
応接室の書棚に、カイが目をつける。…ダメ、やめて。村の集会場の本より桁が何個も多いやつだと思う。希少価値あるやつだよ、たぶん。
「あらかじめ予算を立てるのは、どんな研究においても、等しく行われることです。」
キラリとアルフォンスさんの眼鏡が光る。
「期待される成果に見合った予算を立て、その予算に沿って、研究が行われます。」
「それ、後から、予算追加はできないの?」
マリナさんが疑問を口にする。
「建てた予算を守れなければ、どんなに素晴らしい研究でも、長く続きません。予算は、無限に湧いてくるものではないので。」
…敏腕財務担当の言葉の説得力よ。
――それにしても、そこまで進めるつもりなんだ。ベルトラン様。
「では、こちらからの条件として提示したいのは、まず数量ですが。」
アルフォンスさんが、紙をめくる。
「色無しの魔獣核を、月あたり三十個程度。季節や運搬の都合もあるでしょうから、数か月分まとめてでも良いかと思います。」
「三十?」
「大きさは、前回寄贈いただいたものと同等のものかそれ以上で。研究上、欠けの無いものが望ましいそうです。」
「ちょっと待って。」
マリナさんが声を上げる。
「そんなに要るの?」
「現在の研究員の消費速度がそのくらいなので。」
冷静に返すアルフォンスさん。
なに?一日一個、パーンする想定なの?
「食用の小型魔獣から出てくるものもあるし、今まで埋めちゃってたのもあるから、数はそのくらいなら安定して提供できそうだけど。」
「うん、数は余裕でいける。」
俺とマリナさんは、目を合わせて村を思い出す。
肉は、ほぼ毎日食うし、クズ石も良く見つかる。
色の綺麗な「売れる石」のが珍しいしね。
今度は、高価そうな絨毯に寝っ転がって、長い毛足をむしり始める、カイ。
ヤメて。お願い。カイの両手を握って、押さえる。
「続いて、価格ですが。」
「タダでいいわ。値段なんか付けようが無いもの。」
「そうはいきません。研究材料の入手については、違法性が無いことを証明するために入手先と掛かった費用を記載する義務があります。」
「ウチの村だと捨てるものだし、タダで引き取ってくれてありがとうなんだけど。」
マリナさんとアルフォンスさんが、牽制しあう。
「先ほど申し上げた通り、研究材料としての価値、価格です。採取、選別、保管、運搬、それらはタダではないでしょう?」
「まあ、運搬費、と考えれば、ねえ…。」
王都、遠いしね。
「でも、うちの村だけじゃなくて、ここの近隣の村でも探せば色なし魔獣核、見つかるんじゃない?」
「ええ、おそらく。」
「王都内でも、使用済み魔獣核を回収することもできるでしょう?」
そうなんだよね。コストだけ考えれば、何も遠方から運んでこなくても、とはなるよね。
俺も、それが不思議だったの。かき集めれば、王都の周りでも数は確保できるだろうにって。
「もちろん、他地域からの調達も検討しました。」
「なら、」
「ベルトラン様は、この契約は、ただ石を買うだけの契約ではないから、と。」
…どゆこと?




