33-王都ぶらり散歩
王都のギルドは、「ゲーム」と同じ眺めで、今日もざわざわと騒がしい。
辺境のギルドより何倍も広くて、人も多い。
武具を背負った冒険者が掲示板の前に集まり、受付には荷物運搬や護衛を依頼に来た客が列を作る。
魔獣討伐より、護衛や街中の荷運びなんかが、依頼の中心だからだろうか。
子連れでも、絡まれないくらいには、治安がいい。不思議と居心地は悪くない。
さて、現在、冒険者ギルドの片隅で、カイのおみやげ「キラキラ石」を見ながら、抱っこのままのカイとお話しながら、待機中。
何を待ってるのかというと。
ひとつは、研究塔へ、冒険者ギルドから、職員さんに伝言に行ってもらって、その返事待ち。
多すぎる「石」を俺一人じゃ運べないし。
早めに連絡入れて、ジュールさんかルシアン様からの指示を待つ。「魔獣核」はギルド経由の取引になる可能性もあるから。
財務担当の人とかがマリナさんが会う必要があるんじゃないかの確認もあるしね。
もうひとつは、マリナさんと王都ギルドの打合せ。
これが意外に長引いてる。
辺境からの荷物運搬依頼の検品OKと完了報告だけで終わるかと思ってたんだけど、窓口で、引き留められてる。
マリナさんが王都に来るって、どこかから聞きつけた人が、指名依頼を出してるんだって。
「貴族の依頼なんて、受けないわよ。意味ないじゃない。」
「それはぁ~。」
「王都内の移動に、護衛も何もないじゃない。」
「そうなんですけどぉ~。」
ギルドの、見た目ふわふわお姉さんが、粘ってる?のかな?
「まぁ~。『天鷹』を護衛につけて、見栄張りたいお馬鹿さんなんで、この依頼は無視してもらっても、全然構わないですぅ~。」
いや、違った。見た目と口調を裏切る辛辣なフレーズ。
このぐらいの根性ないと、海千山千の冒険者ギルドで、受付なんてやれないよね。
「一応、依頼があったことはお伝えしておきました、って形が必要なので、すみませんが、依頼書の不受理欄に署名お願いします~。」
マリナさん、美人だし、強いし。そういう「飾り」が欲しい人もいるんだろうね。
ま、見事にマリナさんの地雷踏み抜いてるんだけど。
ほら、悪い顔して依頼元の名前、チェックしてるよ。何されるんだろうね、この貴族。…可哀想に。
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そうこうするうちに。
ギルドに戻ってきた職員さんが、研究塔から雑用人さんを連れてきた。
荷物の引き取りと、ルシアン様からのお手紙を持ってきてくれてた。
「明後日、正午、研究塔へお越しください。だって。」
念の為、ギルドのふわふわ受付お姉さんに確認したら、色なし石…じゃない魔獣核は、市場価値ゼロだからギルドの管理外なんだって。
直取引OKです。
ちなみにお姉さんはリーゼさんといって、王都ギルドの受付主任で、副ギルド長でもあるんだって。
思わず、お若いのにすごいですね、って言ったら、リーゼさんとマリナさんから笑顔で圧をかけられました。
なんか、すみません。
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荷物をお願いして、俺は、マリナさんとカイと一緒に王都の市場を一回りすることになった。
まあ、要するに、カイのお守と荷物持ちという名の強制連行である。
…仕方ないよ。俺がマリナさんに逆らえるわけないじゃん。
ギルドを出ると、昼の王都は賑やかだった。
石畳の大通りには荷馬車が行き交い、その隙間を縫うように人が流れていく。
「焼きたてだよー!」とか「今朝採れた果物だ!」とか「布はいかがですか!」とか。
あちこちから、おじさんおばさんの威勢のいい声が飛び交って、香ばしい焼き菓子の匂いや、香辛料の刺激的な香りが風に乗って流れてくる。
絶対、美味しいやつの匂い。
(ゲームじゃ、一枚絵の背景だけだったんだけどなぁ。)
買い物も、店員NPCが同じ台詞を繰り返すだけだった市場。
でも、今は。匂いも熱気も、王都に生きてる人間の息遣いそのものを感じさせてくれてる。
荷車を押す人がいて。
子どもを肩車した父親がいて。
値切り交渉で渋い顔の店主と、笑顔のおばちゃんがいて。
「レイ兄、あれ!あれなに?」
つないだ手を、グイグイ引っ張られる。
カイのヤツ、飛び出していきそうな勢いだ。ヤバい。ちゃんと手をつないでないと。
マリナさんを見失わないように。
カイの手を離さないように。
「これ!これ、食べたい。」
露店の肉串の前で、カイの足が止まる。
「あ、ちょっと。」
「レイ兄、食べたい。」
「…マリナさん!マリナさん!ちょっと待って。」
前を歩いてるマリナさんに呼びかける。市場のざわめきに負けないように、大きな声で。
聞こえる?聞こえてる?
「マリナさーん。カイが!これ食べたいって。」
一応マリナさんに確認しとかないとね。
これ食べて、夕飯が腹に入らなくなると困るから。
マリナさんに声が届いたみたいで、少し先の露店先で振り返る。
そこから、上げた腕で、そのまま大きな丸を作ってよこす。
はい、食べさせていいんですね。
「肉串、二本下さい。」
「あいよ。二本で銅貨30枚。」
カイと手をつないだまま。つないだ手と反対の手で、懐を探る。
ポケットの銅貨を片手で探って、数えて、おっちゃんに渡す。
銅貨1枚が日本でいうところの10円くらいの感覚だ。
実は、この世界の物価は、安い。食べ物に関しては、特に安い。
なので、この一本150円、くらいかな?この串焼き、香辛料使ってるみたいで、ちょっと割高感。
でもなぁ、このスパイシーな香りには逆らえん。
魔力観測機(試)体験会のお手伝いした時に、日当貰ってたんだよね。ちょっと多めに。
職能手当付いた感じかな?
フトコロ潤ってるから、お高めでも、お兄ちゃん、買ったげるからね。
とりあえず五歳児は、串焼きで上機嫌だ。
もうしばらく、このままでいてくれ。
マリナさんは、値切り交渉に入ったっぽい。戻ってくる気配なし。
ふと。
俺は、市場を見渡す。
ゲームとは違う、景色。
市場は、誰かが、今日を精一杯生きている音と匂いと熱に満ちていた。
…いつか、シエルも連れてきてあげたいな。




