32-辺境からの荷物
「あなたの部屋、目当てのもの、探すの大変だったんだから。」
言外に、「部屋汚い。」ですね。すみません。
冒険者ギルドの片隅を借りて、荷物の検品作業です。
マリナさんが大きな鞄から、紙束を出してくる。
「あんな部屋なのに、資料が置いてある所だけ、ちゃんと手紙に書いてあった通りの順番に並んでたのが不思議でたまんないわ。」
「あ、あと机の上の」
「これで合ってる?読めないから、何が何だかわからなかったんだけど。」
「うんうん、これこれ。」
シエルに見せる用の辺境植物動物まとめ資料、と、観測機(改)のネタ帳です。
…ええ、俺の資料に絵はありません。ありませんが、何か?
俺は、カイを腹に引っ付けたまま、資料に抜けが無いのを確認する。
「それと、『石』、ね。」
「ありがと。…多くない?」
俺が頼んだのは、自分の部屋にあった大きめ記念品の石だったんだけど。
実際、目の前に並べられたのは、想定の十倍くらいの量。
俺が頼んでない、大きめの色なしと、ものすごい量のクズ石も。
「レイ兄。これも。」
ひっつき虫のカイも、小袋を差し出してくる。
色変え遊びの成果だな。
「ん、後で一個ずつ一緒に見ような。このまま、持っててくれるか?」
「うん。」
よいしょ、と、泣き疲れて眠気が来てるらしいカイをまた腹に抱えなおして、マリナさんを見る。
「俺が頼んだの、部屋にあった分だけなんだけど。」
「これでも、頑張って減らしたのよ。みんなが『持ってけ』っていうの全部持ってきたら、あたし一人じゃ持ち切れなかったもの。」
「えぇ、そんなに?」
じいさま達め。
在庫処分しようとしたな。
最近は子供のおもちゃとして多少需要が出てきたけど。
ほんと、色の薄いクズ石と使い終わった色の抜けきった石は置き場に困ってたからね。集会場の隅に置いてある箱にある程度溜まったら、村の近くに魔獣の骨と一緒に穴掘って埋めてたくらい。
「あ、でも、全部持ってきてもらってもいいかも。」
「はぁ?」
研究塔の全員が、まんべんなくパーンとやらかしてくれたおかげで、手持ちのクズ石の在庫が尽きたんだよね。
魔力観測機(改)も、何個か増やしたいし。たぶん、誰かに手伝ってもらうにしろ、また、パーンされるだろうし。
「クズ石、俺たちが思ってた以上に、需要があったみたいなんだよね。」
「…なんで?クズ石よ。」
「うーん、説明すると長くなるんだけど。」
「じゃ、いいわ。」
右の手のひらをこっちにかざして、「STOP」のジェスチャー。
はい、マリナさん、研究の内容とかめんどくさい情報、要らないひとだもんね。
「研究塔で、実験にクズ石使ってるんだけど、」
「あぁ、分かった。また、王都で何か始めたのね。」
「…まだ、何も言ってないんだけど。」
「あなたが、唐突に何か始めて、いろんなこと調べたり変わったもの集めたり。面白がった周りがそれにのっかる、なんて、村のおなじみの風景じゃない。」
「…。」
お見通しすぎて、なんも言えねぇ。
「で、どのくらいいるの?ほんとにあるだけ持って来るなら、荷馬車用意しなきゃいけないわ。」
「あー、」
「色なしじゃなくて、薄くても色があるのを使うなら、村の備蓄倉庫に突っ込んであるけど。それも要る?」
「ごめん。ちょっと、俺一人じゃ決めらんないかも。」
「なんで?」
「予算の問題、とか言われそう。」
俺の手持ちクズ石を出した時も、ジュールさんとかルシアン様とか、財務担当の人とかも交えて、対価の話になったんだよね。
代金要らない。って言ったんだけど、国の施設だからね、研究に使う以上、購入先と購入資金は帳簿に乗せて資料として残さなきゃいけなんだって。
俺の出した分は、少量だったから「寄贈」って形にしてもらったけど。
「やだ。クズ石に、値段なんか付かないわよ。」
「だよねー。」
市場価値がほとんどないから、タダでいい、って思うんだけど。
前提として、国益に寄与する研究をするのが研究塔だから、研究の経緯を記録しておくのが必須。使用する研究材料も、違法性が無いことを証明するために入手先と費用を記載しないといけない。
お役所めんどくさい。
でも、ちゃんとしとかないと「賄賂」とか「癒着」とか、痛くもない腹を探られちゃうんだって。
「マリナさん、泊まるとこ決めてる?」
「ギルド関連の仕事する時の定宿があるから。どうして?」
あの時揉めたのを思い出すと、今回のこの量じゃ、「寄贈」は無理なんじゃないかな。追加分持ってきてもらうなら、なおさら。
正式に、契約とかそういう話になるんなら、二つ名持ちの冒険者で村長の娘のマリナさんがいるうちに、大人の話し合い、した方がいいと思うんだよね。
「一回、研究塔の人と打合せというか交渉しなきゃいけなくなりそうなんだけど。」
「うーん。カイもいるし、王都で買いものとか頼まれごととかあるから、何日かは王都にいるわよ。」
「そっかー。」
「もしかしたら、王都ギルドで依頼、貰うかも知れないし。」
「あー、それもあるか。」
マリナさんクラスの二つ名持ち冒険者は、引く手あまたと言っていい。
王都周辺だと魔獣退治依頼はないかもだけど、護衛とか、訓練指導とか、指名もあるしね。
「そういう時、カイはどうすんの?」
「レイン、預かってよ。」
「え、俺、無理だよ。研究塔の客部屋借りてる状態だもん。」
国の施設だから。小さな子供、連れ込めないから。
「あら、外出できるんでしょ。今日みたいに。」
「用がある時しか、外出しないよ。」
「…やっぱり。」
「なにが。」
「研究はじめると、部屋に籠りっぱなしになるの。」
はい。お見通しですね。すみません。
でも。
「研究がらみだけど、俺の用があるところって、研究塔以外だと、騎士団、なんだよね。」
「は?」
「それと、貴族のお屋敷。シュタール子爵家の離れ。」
「…なんでそんなことになってるの?」
かくかくしかじか、なんたらかんたら。
経緯を、出来るだけ簡潔に説明する。
ね、カイを連れていけないところばっかりでしょ?
言えないけど、カイの父親がいるところとか。
言えないけど、カイの腹違いの兄弟がいるところとか。
マリナさんが、腕を組んでこめかみに指を当てて考え始めた。
「…知らんぷりして、連れてっちゃうのはどう?」
(ヲイヲイ。)
「まあそれは冗談として。」
「冗談でよかった。」
「王都の依頼は、出来るだけ引き受けないことにするわ。」
そうしてくれると助かる。
泊まらせてもらってる研究塔もさ、じいさまとベルトラン様の昔の因縁とやらがあるから…。
あ。
「そういや、じいさまが昔研究塔に居たって話、知ってた?」
「知ってるわよ。」
「その時に、今の研究塔の偉い人とかなり揉めた、って話は?」
「もちろん。…え、あれ?レイン、あなた知らなかったっけ?」
マリナさん、貴女もですか。




