31-五歳児、かいしんのいちげきとぎゃくしゅう
シエルと「お庭図鑑」を作った翌々日は、冒険者ギルドへお呼び出しでした。
辺境から、護衛付きで荷物が来たので、受け取りと確認が必要です、って。
冒険者ギルドは二回目なので、今回はジュールさんの付き添い無し。
で。
「レイン。頼まれたもの持ってきたわよ。」
「レイ兄ぃー!」
――ンガフッェ。
かいしんのいちげき。
腹部ダメージ、大。中身、出そう。
砲丸が腹にめり込む勢いで、小さな塊が、飛び込んできた。
「…あ゛、…んで、カイ、まで、連れて、きたのさ。」
呼吸困難にあえぐ俺に、淡々と返すマリナさん。
「そりゃ、あんたが帰ってこないから。」
「レ゛イ゛兄゛ぃぃぃぃ。」
もう、涙とか鼻水とか区別付かなくなったグチャグチャな顔をみせて、すぐ頭をゴリゴリ擦りつけてくる、カイ。
おい。涙はいいけど、鼻水ヤメて。取れないから、白いのが。
「もう、大変だったのよ。あんたが『すぐ帰ってくるから』なんて言ったもんだから。」
マリナさんがいうには、その日の夕方に「すぐはまだか?」とか、「すぐはいつだ?」とか、ずっとせっつかれてたらしい。
マリナさんだけじゃなく、うちの父親や母親、じいさまや村のみんなに満遍なく絡みに行って、あしらわれて、しょげて、の繰り返しだったみたい。
石の色変え遊びも、一個変わるたびに「レイ兄にみせにいく。」「レイ兄にわたす。」で、大暴れ。
そりゃあ、すまんかった。
「レ゛イ゛兄゛、い゛っじょぉぉぉ!!」
…俺、こんなにカイに懐かれてたのか。
抱きつかせたまま、頭をぐしゃぐしゃ撫でる。泣きすぎて、熱くなってる頭。髪もだいぶ汗ばんでる。全力で泣いてたんだな。
泣き声が、ウワァーンからエグエグになるくらいまで待つ。
「俺、ちゃんと帰る予定だったよ?」
「でも、いながっだぁ。」
「…はい。」
すんません。
「この子ね。」
マリナさんが、腕を組む。
「毎日聞いてきたのよ。」
「…。」
「レイ兄はいつ帰るんだ。今日か、明日か、まだかって、毎日毎日。」
「…。」
「最初はね、私も笑ってたの。」
マリナさんは肩をすくめた。
「レインは昔から変なところに夢中になる子だったから、王都で面白いこと見つけて夢中になってるんだろうって。村のみんなもそう。」
少しだけ、目を細める。
「…もしかしたらもう帰ってこないかもって。それも仕方ないねって。」
「…。」
「でも、この子だけは違ったのよ。レイ兄に会いたいって、そればっかり。」
胸の奥が、少し詰まる。
「すぐかえるっていっだぁ。」
「…はい。」
「なのに、ずっといながったぁ。」
「…はい。」
「レイ兄、うそつぎぃ。」
――ぐはっ。
かいしんのいちげき。
精神ダメージ、大。
いや、違うんだ。
嘘をついたつもりはない。
本当に、数日で帰るつもりだったんだ。
でも。
シエルに会って。
研究塔で魔力観測機を作って。
騎士団に行って。
誕生日計画を立てて。
魔石の研究が始まって。
…うん。
言い訳できない。
全部、「俺がやりたかったから。」だった。
「ごめん。」
素直に謝る。
カイが顔を上げる。
「…、おれといっぱいあそんで。」
「…それでいいのか?」
「いいよ。」
しばらく、じっと見られる。
それから。
俺の腹にふたたび頭がぐりぐりと押し付けられて、涙とともに厚い鼻息の塊が…。うへぇ。
(生あったけぇ…。五歳児の全力のいやがらせだぁ。)
「わかった。」
頭を撫でる。
「カイといっぱい遊ぶ。」
「ほんと?」
「ほんと。」
「やくそく?」
「約束。」
今度はちゃんと、守れる約束をする。
「甘いわねぇ、レイン。」
横で見ていたマリナさんが、呆れたように息を吐いた。
「え?」
「そういうところよ。」
「いや、でも俺が悪いんだし。」
相変わらず、さっぱりした雰囲気。でも、少しだけ疲れた顔だ。
マリナさんは、カイの頭に手を置く。
「ほら、カイ。次はあたしがレインと話す番だから。」
「…。」
俺の腹に頭をぐりぐりさせて、「いや。」の返事。
はい、これ、しばらくひっつき虫コース決定ですね。
わかりましたぁ!




