表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ネタ不可避の推しを生き延びさせるために、転生モブは全力を尽くします!  作者: ちまはは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/40

29-未来のページを綴る

 

 シエルは、名残惜しそうにテラスの方を振り返っていた。


「…もうすこし、おそとに、いたかったです。」


 その言葉に、モロー先生が苦笑する。


「今日はここまでですよ。」


 そう言って、椅子へ座るよう促し、手首にそっと指を添えた。


「少し脈が速くなっていますね。ですが、顔色は良いです。」


 俺が見たところでも、興奮のせいか頬が赤くなっているが、ほんのり、くらいだし、日焼けのいやな赤みでもない。


 モロー先生も、額へ手を当て、呼吸の様子も確かめる。


「疲れは出ていますが、熱は出ていませんね。心配するほどではありません。」

「…、」

「今日は初めてでしたから、このくらいで終えるのがちょうど良いでしょう。」

「…はい。」


 少しだけ、肩を落とすシエル。

 それだけ、楽しい時間だったんだね。良かった。

 しゅんとしたその様子が、可哀想だけど可愛くて。天使。


「じゃあ、その代わりに。」


 シエルがこちらを見る。


「『離れのお庭図鑑』を作りましょう。」

「…ずかん、ですか?」

「はい。」


 テーブルの上に、庭で摘ませてもらった花をそっと並べる。

 小学生夏休み研究の定番。


「今日見たお花の名前や色や形を入れて、名前を書いたり絵を描いたり標本…押し花を作って貼って、一冊の図鑑にするんです。」

「…?」

「花だけじゃなく、木や草や、庭に来る小鳥や虫の絵を描いても面白いと思いますよ。」


 シエルは、花と俺の顔を交互に見比べた。


「…ずかんは、ほん、ですよね?」

「そうですね。でも、シエル様が読んでいる図鑑も、最初は誰かが作ったものなんですよ。」

「…え?」


 青い瞳が丸くなる。


「誰かが見つけて、調べて、書き残したから、本になったんです。」


 この世界では、まだまだ、書物の大量生産は進んでいない。だいたいが個人の記録や論文で、良いものが筆写で広まり、それが研究塔のような場所に集約され占有されている。

 集会場に本が転がってるウチの村が、おかしい。


 俺は笑顔で続けた。


「俺も、辺境の植物や動物を調べてまとめたものがあります。研究資料として作ったんですけど、今度お持ちしますね。」

「レインくんも、ずかんを?」

「そんなに立派なものじゃ、ありませんけど。」


 シエルに、キラキラの瞳で見上げられた。

 やだ、照れちゃう。


「辺境には王都にない植物も多いので、あとで見返せるように書き留めてただけです。」

「…わたしにも、つくれるでしょうか。」

「もちろん。」


 俺は迷わず頷く。


「それに。」


 少し身を乗り出して、わざとないしょばなしのように言う。


「シエル様が作った図鑑を、誰かに読んでもらえる日が来たら、素敵だと思いませんか。」


 シエルは、庭で見つけた小さな白い花を見つめた。


「…わたしのほん。…だれかに、よんでもらう…。」


 その言葉を、小さく繰り返す。


「私は辺境の花には詳しいと思いますが、王都の花には詳しくないんです。」

「…?」

「シエル様が作った『お庭図鑑』、読ませてくださいませんか?」


 シエルの瞳に、光が宿る。


「もちろん、すぐに出来上がるわけではありません。」

「はい。」

「少しずつ、少しずつ、進めていくことになります。もちろん、無理をする必要もありません。」

「はい。」

「まずは、今日見つけたお花を、一つだけ記録してみましょう。」


 俺はテーブルの上の小さな白い花を指差した。


「名前は、覚えていますか?。」

「はい。」

「では、それを紙の一番上に大きく書きます。次に花の特徴。色は白。花びらは五枚。葉っぱは細長くて。」


 シエルも花を覗き込む。


「…いい、においがします。」

「それも立派な記録です。」


 俺は嬉しくなって笑う。

 シエルは、感性が豊かだ。記憶力もいいし、賢い。最高。


「図鑑って、そういう作った人の、気づいたこと、を集めて記録した本なんです。」


 シエルは花を大切そうに、両手で包み込んだ。


「…わたしにも、できますか。」

「はい。できます。」


 シエルは少し照れたように笑った。

 その笑顔は、庭へ出る前より、ほんの少しだけ前を向いたように見える。


「わたしの、おにわずかんを、つくります。レインくん。てつだってください。」


 よし。

「いつか叶うかもしれない」の一ページ目、開きましたよ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ