3-ゲームと推しのはなし
――マリナの高熱が下がった、あの瞬間に感じた眩暈。
あのあとから、自分の中の違和感と、うっすらとした「記憶」に、ほんのり色がついた気がした。
そして、気づいた。
例えば、この国の名が「ヴェルナリア」だということ。
例えば、この世界に竜に封印された魔王の言い伝えがあること。
例えば、いとこのカイが、明るい茶髪で、瞳が金にも見える琥珀色なこと。
いままでは、ベールの向こうにあったものがすぐ近くに感じられて。
――この世界が、あの『ヴェルナリアの封印~ambivalence~』の『ゲーム世界』と同じだということに。
**********
『ヴェルナリアの封印~ambivalence~』は、『剣と魔法のファンタジー』として、ネット配信されていた周回型のRPGゲームだった。
王道RPG風だが、周回プレイ前提のクセつよ設定だ。
大まかなストーリー展開は3周分。周回する毎に時間軸が5年ずつ遡ってく仕様だ。
周回を重ねるごとに、ストーリーが変化してエンド分岐も増えていき、追加エピソードも配信されたりもしたので、沼るユーザーがまあまあいた。俺もその一人。
いわゆる『前世の記憶』というものによると、俺はいわゆる『ガチ勢』だったらしい。
名前や年齢やらの個人的な記憶は無いのに、このゲーム記憶はめちゃくちゃあって。よっぽど好きだったんだろうね、前世の『俺』は。
『推し』の為に、『生存ルート検証サイト』を立ち上げて、同好の士と共に考察を重ねていたらしい。
で、その『推し』キャラなんだが…。
ヒーローのライバル役で、銀髪青目の、美少年と言ってもいい整った容姿。どの周回プレイでも必ず死を迎えてしまう「シエル」というキャラだ。
前世の俺、いや私?は、相当な『面食い』だったのかもしれない。
【一周目】は、辺境の村に住む母をなくした15歳のヒーローが、実の父が貴族で、自分から母を奪った相手である義母と義弟シエルに近づき、母の仇を討とうとする【復讐譚】。
通称「農民エンド」は、村に帰って幼馴染と結婚。「冒険者エンド」は、無常を感じ、村には帰らず各地を旅する。このエンドだけは、セーブ不可で、どちらを選んでも、否応なく【二周目】に叩きこまれてしまう。
「シエル」は返り討ちされて死ぬか、ヒーローに許しを与えられて自死するか。
【二周目】は、母のいないヒーローが10歳の時に父親に呼び寄せられ、後継候補として学園へ通う【「平民からの成り上がり」学園もの】
エンドは多数存在する。ここをループして、同級生たちとの友情だか恋愛シミュレーションのような楽しみ方をする人もいたな。
「シエル」は、病弱で後継から外されそうになり、学園でヒーローに妨害工作をするがことごとく失敗して、後継から外された後、幽閉後に病死。
【三周目】は、5歳でヒーローの母が亡くなった後すぐに父親が迎えに来て、後継として教育を施され、剣と魔法の才能を開花させ、学園で出会う友人たちと切磋琢磨し、封印を破り復活した魔王との戦いに仲間とともに立ち向かう【冒険もの】
エンドは二週目より多数存在していて、ユーザー人気が一番高いのもこの【三周目】だ。やりこみ勢も多かった。
この周回の「シエル」なんて、ストーリーが始まる前に孤独死した上に、死亡後に肉体は行方不明になってしまうし。
さらに悲惨なことに、行方不明になった肉体は、実は魔王が自分の器にするために利用されていて、最終決戦はシエルの姿でヒーローに倒されてしまう。魔王に勝利すると、当然肉体も消滅する。
さらにさらに悲惨なのが、ヒーローが返り討ちにあったエンドだと、ヒーローがなぜか魔王の器として使われ、シエルは中身のない生き人形として外見ヒーローの中身魔王に愛玩されるんだよ。別名BLエンドって呼ばれてて、一部の腐…熱狂的なファンが付きはしたんだけど。いや、それ、悲惨過ぎない?いろいろと。
「シエル」は、どの周回でもどのエンドでも、必ず死を迎えてしまう。必ずだ。
ヒーロー役覚醒のための踏み台キャラで、病弱な上、両親の不仲の原因と本人は信じている不憫な役だ。
彼の不幸は、彼を取り巻く人と環境のせいであって、彼自身のせいでは決して無いのに。
前世の俺は、どうやら子供の不幸を『リアル』でも『フィクション』でも許せない性質だったらしい。許せるか、運営のバカたれが。
『運営、人の心無いんか⁉』
何度叫んだことか。
理不尽な運命に翻弄される子供が、悲しくてやりきれなくて。
架空の、しかもセリフも出番も少ない敵キャラだったけれど、セリフやスチルに現れる静かすぎる笑みが、哀しみがもう切なくて、何度もモニターの前で泣いた。
――どうして。
――なんで。
――この子ばっかり。
どうにか、この子を救う方法は無いのか⁉
真剣に、どこかでこの子を救える分岐があると信じて、周回したり、リセットを繰り返したり…。
何百回周回しても。
何度選択肢を変えても。
シエルは、必ず死んだ。
…結局、「シエル」を救う方法は見つけられなかった。少なくとも『前世の記憶』の中では。
**********
いとこのカイは、『ヴェルナリアの封印~ambivalence~』のヒーローで間違いないだろう。
『ゲーム』だと『ユーザー』が名付けをするのが普通だったから、名前では気づけなかったが、よくよく思い浮かべたら、『デフォルト設定』が「カイ」だった覚えがある。
検証サイトに「カイ」が、入り組んでるストーリーに対して『解』の意味なんじゃないか?と考察した書き込みがあったのを思い出した。ホント遅かった。ごめん。
『ストーリー』だと母親を亡くした後の、5歳にしては大人びた表情のスチルしか見たことがなかったし、「レイン」としては、能天気な子供らしい子供なカイしか知らないわけだから、気づかなくても仕方なくないか?…いや、ホントに、なんで早く気づけなかったの、俺。
で、だ。気づきましたよ。スゴイことに。
カイは、5歳になったばかり。誕生日直前にマリナさんが倒れて、快気祝いと誕生日祝いを一緒にやった。
「シエル」は、カイの約十ヶ月後が誕生日だったはずだから、コレ、大チャンスなんじゃないの?
『今の時間軸』が、【三周目】の時間軸つまり『ゲーム展開上』の『最古分岐ポイント』より前にきてるわけだから。
しかも、マリナさんは生きてるし。
原作改変しちゃってたよ、俺。
ちょびっとだけ『原作ゲームの強制力』なんてコワいフレーズが頭をよぎったりするけど、えい、もう、考えないことにする。
だってさ、あれだけヒント探すために粘って徹夜して、制作や運営のSNS巡回とかまでして「シエル」を救う方法を見つけようとしてたんだから。
目の前にあるラッキーの神様の前髪つかみに行くよね。禿げるまで離さない覚悟です。
次は、辺境のハズレ村から、王都の「シエル」までどうやってたどり着くかって問題なんだけど。
相手は貴族で、こっちは辺境のド庶民。今のとこ接点も、乗り込んでいく口実も無い。
時間軸が【三周目】だとしたら、本筋ならマリナさんが亡くなった後にカイに迎えが来るんだけど、生きてるしね。どうするかなぁ。どういう流れでカイの父親はマリナさんが亡くなったことを知ったんだっけ?…うーん、うろ覚え過ぎる。主人公イベに興味無かったのかな、前世の俺。
ウゴウゴしながらも、じいさま達と魔力観測機の精度上げる実験したり、観測した魔力の流れをどうにかできないか考えたり。
前世の記憶を思い出せる限りメモって、時系列で並べて、情報整理してみたり。
そんなこんなで、1ヶ月後。
しつこく前髪握りしめ続けたのがよかったのか根負けしたのか、ラッキーの神様がチャンスを運んできてくれました!




