26-いつかの未来のために
「孫の話し相手を申し出てくれたと聞いた。」
ベルトラン様の眉が少し下がる。
(あ、おじいちゃんだ。すごく、孫思いのおじいちゃん。)
「君は、シエルを気に掛けてくれているようだが。それが滞在期間を延ばした理由かね?」
(はい。そうです。その通りです。)
心の中だけで、禿同。
シエルは、俺が王都に残ろうとしている理由の、かなり大きな部分を占めているのは事実。
「俺に、シエル様と年頃の近い、弟分がいるので。」
「ああ、あのいとこだと言っていた元気な子ですね。」
ルシアン様が、村で見たカイを思い出したらしい。
野山を駆け回るカイと比べるのも失礼かもしれない。
でも、やっぱり。
「…なんというか、他人事とは思えなくて。」
貴族の子息だというところを差し引いたとしても、シエルは、遠慮が勝って大人びてしまっている。
あの年頃の子供が、諦めることを覚えてしまっているのは、やりきれない。
「だが、それだけでは説明がつかん。」
紙束に目を落とすベルトラン様。
「騎士団へ足を運び、冒険者ギルドで滞在先まで探している。」
静かに続けた。
「君は、何をするつもりなのかね。」
ですよねー。
一度会っただけの子供に肩入れし過ぎだ、と言われれば、その通り。
なんだったら、案件ですもん。
なんて言えばいいんだろう。
俺は窓の外を見た。
あの離れのような、整った綺麗な庭。
でも、その庭にすら出られない、シエル。
「辺境を、」
シエルが見たいと言ったものは、ここには無い。
「見てみたいとおっしゃって。」
見せてあげたい。
夢を。
可能性を。
「俺、シエル様に、一つくらい、『いつか叶うかもしれない』を知って欲しいんです。」
それだけの話だ。
それだけでも、今のシエルにとっては、未来を動かす大きな一歩になるはずだ。
俺の後ろで、ジュールさんが、静かに言った。
「『わたしも、しりたいです。…わたしのことを。』と。」
あの日のシエルの静かで、でもこころの奥底から転がり出た言葉。
「シエル様は、そう仰っていました。」
「…そうか。」
ベルトラン様が、目頭を抑えた。
「シエルが、そんなことを…」
叶えてあげたいよね。
だから。
「俺、一つ試したいことがあるんです。そのことで、ちょっとお願いしたいことがあって。」
**********
「魔石を使った魔力安定法?」
「なんですか、それは?」
ベルトラン様とルシアン様が揃ってハテナ顔だ。
ジュールさんだけ、なんかウンウン頷いてる。なんで?
「まだ仮説というか、実験すらしてないんですけど。」
メモも石も実験部屋に置きっぱなしだし。
とりあえず手持ちの中で一番大きい色なしの『石』を、見せる。
えーと、あれ?ベルトラン様に、「石の色変え遊び」、言ってなかったよね。良いのかな?
ルシアン様ー?
「そのまま、続けて。」
いいの?もう言ってあるの?いつの間に?
「えーと、きっかけは、たまたま『石』を握ったまま、うっかり寝落ちちゃったことがありまして。」
「うっかり?」
「たまたま?」
「そもそも『石』を握ったままって、どんな状況なんです?」
もう、三人一緒に突っ込まないでくれるかなー。
シカトしちゃうぞ。
「…朝起きたら、『石』の色が濃くなってたんですよね。魔力が石に溜まってる状態。」
「…。」
「…。」
「…。」
今度は三人一緒に無言かよ。
「で、意図的に魔力を込めようとすると上手くいかなくて、」
「…。」
「握ったまま寝落ち、とか、服の内ポケットに入れっぱなしで忘れてた、くらいの感じがちょうどいいです。」
「…。」
無言やめて。
「とにかく、『石』に魔力を移せるなら、暴走する前に少しずつ魔力密度を下げられるんじゃないかなーと思いまして。」
初見のベルトラン様はともかく、ルシアン様とジュールさんは、経験済みでしょ?
なんで、ジト目なのさ。ひどくない?
「石に魔力が移る、という事象を発見したのはいつ頃だね?」
「魔力密度、という概念について聞いても?」
「それが、魔力の安定につながるというのは、具体的な事例が有ったんですか?」
だから、三人一緒はやめてってば!




