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死ネタ不可避の推しを生き延びさせるために、転生モブは全力を尽くします!  作者: ちまはは


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20-『悪』ではない『毒』

 

 馬車が、石畳の凹凸でカタカタと揺れている。

 窓の外では、シエルの屋敷が少しずつ遠ざかっていく。


 最初に息を吐いたのは、ジュールさんだった。


「レインくんでも、怒ることがあるんですね。」

「…。」

「奥様の態度に対して、ですな。」


 モロー先生も、そう言って、深く息をつく。


「だって。」


 胸が、苦しい。眼のふちが熱くなる。


「辺境の花を見たいって、そう、言っただけですよ。」


 誰も答えない。


「なのに。」


 声が震える。

 石の魔力を測る遊びを、あんなに楽しそうにしていた。見たことのない辺境の花を思って、目をキラキラさせていた。


「最初から無理だ、って言われるのは、かわいそうじゃないですか。」

「…。」

「あの子が、好きであんな体質になったわけじゃないのに!」


 馬車が揺れる。

 ガタガタという音が、やけに大きく響いている。


 やがてモロー先生が、静かに口を開く。


「レイン君。」

「はい。」

「奥様は、あの子を愛しておられますよ。」


 どこが!


「閉じ込める。というのは、医者としては、あまり良いことではないと思っています。」


 だったら!


「ですが、それもきっかけと理由があるのです。」


 モロー先生が、窓の外を見る。


「シエルくんがはじめて魔力暴走を起こした時、屋敷の一部が吹き飛んだそうです。」


 うん、それは、『ゲーム』の設定資料集にも書いてあった。


「侍女が数名負傷しました。」

「…。」

「奥様も怪我をなさいました。落ちてくる瓦礫から、シエルくんを庇って。」


 モロー先生が、言う。


「それ以来です。シエルくんが、外へ出ようとしなくなったのは。」

「え?」

「初めは、シエルくん自身が、外へ出ることを望まなかったのです。」


 え、そうなの?


「シエルくんも、怖かったのでしょうな。身近な、母や侍女に怪我をさせてしまったことが。」


 ――事故の起きた時に住んでいたのは、貴族街の中心地に近いところで、研究塔も騎士団の詰め所も近い、利便性の良いところだったという。

 ベルトラン様も、自身でシエルくんの様子を見に行ったり、魔力制御の手ほどきをしたり出来ていたそうだ。


 でも、事故が起きてしまい、屋敷の一部が吹っ飛ぶと、周囲の目も変わる。

 夫婦で謝罪に回ったそうだが、やはり住み続けるのは難しく、貴族街の端に広めの屋敷を購入し移り住むことになった。


 事故で怪我をした侍女には充分な治療を受けさせ、辞めたがった者には相場より多めの退職金を渡した。


 そして、辞めずに残ってくれたシュナイダー夫妻に、シエルの世話を任せ。父は騎士団に詰めきりになり、母は社交や神殿の奉仕活動や孤児院の慰問などに力を入れるようになったという。


「そのうち、離れから出ないことが、当たり前になってしまったのです。」

「…。」

「外へ出なければ、シエルくんが傷つくことも、誰かを傷つけることもない。」


 モロー先生が話し終わり、今度はジュールさんが口を開いた。


「リュシエンヌ様ご自身も、お父上のベルトラン様と、なかなか複雑な関係なんです。」


 ――リュシエンヌは、ベルトラン様と亡くなった奥方のただ一人の娘で、本当なら婿を取って後を継ぐ予定だったそうだ。

 傍系の魔力の多い男子が幾人か婿候補に挙がったのだが、リュシエンヌは首を横に振り続けたという。


 自分が魔力が低いのがコンプレックスだったリュシエンヌは、父の後継者の座を狙って自分に近づく男を嫌った。

 そして、自らの意志で選んだのが、魔力では無く己の剣技で己の道を切り開いた伯爵家の次男。

 (はた)から見れば、実に睦まじい夫婦仲だったそうだ。

 結婚後、すぐに授かった男の子が、思いがけない高魔力量だったことがわかるまでは。


 ジュールさんが、ため息をつく


「ベルトラン様は研究馬鹿です。」


 …おいおい。思い切ったな。研究塔のトップに対して、遠慮がなさすぎないんじゃない?

 いや、遠慮なく言えるジュールさんみたいな人を、あえて重用してるってこと?ベルトラン様。懐深い、のかなあ。


「リュシエンヌ様が幼い頃から、ほとんど家に帰ってなかったそうです。体の弱いお母上と、お屋敷でずっと研究塔に詰めるベルトラン様を待っていらっしゃったとか。」


 ジュールさんが肩をすくめる。


「研究より大事なものが無い。そんな風に見えたんでしょうね。」

「実際には、魔力量が多く安定しなかった奥方の体調を少しでも改善するために、研究に没頭されておられたそうですよ。」


 モロー先生がフォローを入れる。代々医者の家系と言っていたから、もしかしたら、エトワール家の主治医もしてたのかも。

 そっか、シゴデキな上に事情に通じてるんなら、ジュールさんが若くて信頼されるのも、理由があるんだね。


「お母上からは、父上の研究は世に必要とされる大切なお仕事、と諭されていたようですが。」

「でも、リュシエンヌ様からしたら、父親に見捨てられたようなものだった。」


 ジュールさんは続ける。


「だからこそ、シエル様に執着している部分もあると思います。」

「執着ですか?」

「ええ。魔力の低い自分が産んだ息子が、魔力が高いがために父の気を引く。自分の欲しかったものを得る息子、になったわけですから。」


 馬車の中が静かになる。


「親というのは難しいものです。」


 モロー先生が、ジュールさんをみて苦笑する。


「子を守ろうとして、子の世界を狭めることもある。」

「そう、その通り。お互いがお互いを思いやっていても、それが相手に伝わらないこともある。」


 ジュールさんも、肩をすくめてモロー先生を見やる。

 …なんか有ったっぽいな、この親子。でも、今は『阿吽の呼吸』で動けるくらい、息が合ってる。いいね。


 …うん、事情は判った。

 きっかけも、理由もわかった。


 でも、納得はしてないんだよ。俺は。



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