表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死ネタ不可避の推しを生き延びさせるために、転生モブは全力を尽くします!  作者: ちまはは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/40

閑話 医師の困惑

 

 レイン・グレイ。

 辺境から招かれた、若い、若すぎる研究者。


 魔力観測機なるものを(たずさ)えて、私の患者である幼い子の前に現れた。

 一風変わった礼儀正しい田舎の少年。


 言葉遣いや所作は丁寧で、育ちは良い、と感じる。

 率直で、かといって無礼ではない。

 貴族相手でも萎縮しすぎず、少年らしい明るさもみせる。

 辺境で伸び伸びと、大事に見守られて育った、というところか。


 そして、飄々として、不思議なほど、我欲がない。




 **********




「まず入力経路を切り替えます。」


 レインが、魔力観測機の突起に触れる。カチリと音がする。

 医師である私に、使い方を覚えて欲しいという。


「これで、観測対象が『物』から、『人』になります。」

「わざわざ変えるんですか?」

「はい。石のような『物』は、人と違って変動しないので。魔力を測定するための除外条件が少ないんです。」


 淀みない説明。


「基本的に、体内の魔力だけを計測するために、まず周囲の状態を観測します。空気中の魔力、えーと、魔素と仮称してますが、それも外的要因として除外対象になるように想定してるので。」


 初めて聞く理論、初めて聞く概念、名称を、次々披露していく。

 ジュールをちらりと見た。目が合う。…わからない名称は、あとで、確認しよう。


「さっき、石の魔力を測った時、魔素などは既に計測済みなので、」

「その為に、先に石の魔力を?」

「…いえ、その方がシエル、様みたいな小さい子に楽しんでもらえるかな、と思って。」

「なるほど。」


 この少年は、教師に向いているのかもしれない。

 遊びの中に学びを取り入れるのは、貴族の子弟を相手にする家庭教師がよく使う手法だ。


「外的要因を記録したら、次は、石に計測対象の魔力を記録させます。ここのねじを巻くと音が鳴るので、」


 言いながら、側面のねじを巻く。カチリカチリと等間隔で鳴る音。


「この音が五つ鳴る(あいだ)、観測機に付いている石に、指先だけで触れてもらいます。」

「魔力制御が必要になりますな。」

「いえ、触るだけです。制御を習う前の小さい子や、意識がない魔力制御を行えない状態でも、可能な計測なので。」

「…。」


 なるほど。研究塔が大騒ぎになっているというのは、これか。


 今までの魔力測定は、「本人が魔力を制御できる」ことが前提だ。

 子供や衰弱しきった病人だと、魔力異常が起きた場合、診断も状態把握も難しい。

 なんとか、治療に持ち込めたとして、治療効果の確認も難しい。

 つまり、一番測りたい患者ほど測れない。


 思い出したくも無い、医師として、悪夢のような状況。


 貴族の屋敷が、常にお抱え医師を置く理由も、ここにある。

 常日頃の身体の状況を、詳細に把握していなければ、不測の事態に対応出来ないからだ。


 今までに無かったことが不思議なくらいに、我々医師に必要なもの。

 医療と研究の常識をひっくり返す装置だ。


 この装置と用いた理論だけでも、研究塔でひと派閥を起こせるほどの影響力を持てるだろうに。

 ジュールが言うには、研究塔で研究員になるつもりは無いらしい。それより、この装置を臨床に用いる方に力を入れていると。

 既得権益にしがみついたり、独占秘匿して名誉や富を得ようとする(やから)より、よほど信頼がおける相手であることには違いない。


「この石に触ると、触った人の魔力と同調します。」

「ほう。」

「次に、この石から、魔力を放出させます。石の隣にあるここを押すと光が灯るので、灯る時間をさっきの音で何回分になるか数えます。」

「ほうほう。」

「光の灯っている時間が長ければ長いほど、魔力密度が高く、魔力量が多いということになります。」

「…では、やり方を流れで見たいので、シエルくんを測る前に、私で試してもらってもよろしいですかな?」


 説明のよくわからない部分は、あとで、ジュールに確認しよう。




 **********




 レインが私の魔力を測り、私がシエルの魔力を測る。


 私の魔力量に比べて、やはり、シエルの魔力量は桁違いのようだ。

 日を置いて何度か計測を重ねれば、より詳細な数値が出るという。

 レインのいう「外的要因」の変化も含めて、記録として残しておくのが良いらしい。


 シエルは、机の上の青い魔獣核をそっと撫でていた。


「どうでしたか?シエルくん。」

「どう、といいますと。」

「楽しかったですか?」


 シエルは少し考えていた。


「はい。」


 小さく、でもはっきりと答えた。


「たのしかったです。」

「それは何より。」

「良かった。」


 レインが、ほっ、と笑みを浮かべる。


「私としては大変有意義でしたな。今後の治療方針にも役立てられそうです。」

「それなら作った甲斐がありました。嬉しいです。」


 レインが嬉しそうに頷いた。

 ジュールが肩をすくめる。


「研究塔の人たちにも、同じように言ってあげなよ。」

「やめてください。あの質問攻めは、思い出すだけで胃が痛くなるので、全然嬉しくありません。」


 レインは即答した。

 ジュールが吹き出した。

 私も思わず笑う。

 そのやり取りを見て、シエルもくすくすと笑っていた。


 今日のシエルは、表情が豊かだ。

 何度も、この離れを訪れてきたが、年相応の無邪気な部分は、初めて目にしたかもしれない。


「そろそろ、御暇(おいとま)致しましょうかな。」

「そうですね。名残惜しいですが、これ以上長居をして、シエルくんを笑わせすぎて調子が崩れてしまっても困ります。僕が父に叱られてしまいます。」


 おどけるジュール。

 レインとシエルは、また、手を重ね合っている。


「また、きてくれますか?」

「はい。お許し頂けるなら、必ず。」

「…かならず、きてくださいね。」


 少し瞳を潤ませるシエル。

 この子が、こんなに、何かに拘る事があるなんて。

 自分の望みや願いを、口にしたことなど、ほとんど無かったのに。


「では、シエルくんは午睡を。身体を健やかになさいませんと、次のお約束も叶えて差し上げられませんからね。」

「はい。」


 再訪を約束し、シエルの部屋を後にした。


 離れの廊下。

 レインに、見送りのシュナイダー夫妻が深く頭を下げていた。


「またお越しください。」

「あんなに笑うシエル坊ちゃま、久しぶりに見ましたわ。」


 本当に。マルタは涙ぐんですらいるようだ。


 来た時と同じように、裏手の通用門へ向かおうとした私たちの後ろから、女の声が響いた。


「あら、もうお帰りになりますの?本邸にお寄りになればよろしいのに。」

「…奥様。」


 マルタとヨハンの表情が強張る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ