10月 恋愛初心者の苦悩
未成年の飲酒・喫煙表現がございますが、それを推奨するものではありません。
10月1日(木) 0時5分
ついに10月。
世の中はロマンチックに秋なれど、僕の頭は赤道直下、発熱中。いいかげんスッキリせんと外に出られんわ。
ついに部活動も試験休みになってしまった。弓道大会には出られそうもないな。
書く気力も全く無し。おやすみ。
10月6日(火) 1時37分
今は夜。
雅実ちゃんはどうも、今の僕とは異なる人種のようだ。彼女と付き合っていくのは骨の折れる事だろう。でも女の子との接触は保たれるので、楽しいとは言い難いが、まずまずの気持ちで手紙を待っている。
中間試験中であるが大敗というか、この場合は酷くても大敗ではない。大敗とは予想に反するからであって、大方察しが付いている場合、そうは言わない。せいぜい中敗ぐらいであろう。直前に体調不良で休んでいたとしてもだ。
現国の質問に職員室へ行った時、篠山先生が
「教師の代りに問題を考えてくれ」
と言った。その時は、いえいえなどと言って笑っていたが、出題者にしか答えが分からん問題を出すのも楽しそうだ。
回答者が、例えもっともらしい解釈を答えても、北杜夫氏が泣いて喜ぶような自論を持ち出し、あっかんべぇをする。じきに、どこからか編集者が来て、僕の新解釈の本が出る。世論はどう反応するのか。
司馬遼太郎氏の上州を舞台とした歴史小説『北斗の人』は面白かった。
でも、今一つ盛り上がりに欠けるのでは。どうして主人公・千葉周作は馬庭念流と伊香保明神で合戦じみた事をしなかったのだろう。新流儀対古流儀。気が抜けた。我も直情的上州人という事か。
良輔から電話が来る筈だ。男と深夜に話すのもどうかと思うが、雅実ちゃんは
「それは悪い事」
だって言うから女の子とは出来ないし、仕方ないか。
地理のテストの為に暗記をしているうちに馬鹿らしくなって止めた。と言いながら、明朝は早めに登校して、ノートにない箇所を見ようと思っている。煮え切らない、かな。
しかし『北斗の人』はテストが終わってから、ゆっくり読もうと思って学校図書室から借りてきた本であったのに、何もその日のうちに五時間も掛けて読む事はなかった。
良輔は冷たい、人非人、裏切者、ヤロー電話くれー!
二時を回ったが眠くない。明日に響くよね。
ラジオから女性アイドルの骨折のニュースが。高さ四mから落ちたそうだ。明日の話題が決まってしまった。テストをまともに考えられないヤツが出るのではないかな。
Masami ' s Letter
君が Bruce Springsteen が好きだって言うから、少年Bに借りようとしていたのに、前々から不調であった僕のカセットデッキは病院入りしてしまった。知り合いに機械に強い人がいて、その人に見せれば直ると思っていたが、開けてみたら悪いのはヘッド。これ以上触ってボンしたら困るのから入院・修理に出しました。
『THE RIVER』はお預けですね。
彼女は音楽部だそう。音楽部=合唱部かね。
どんな曲やんの?
やっぱ固いクラシックかな?
すこしはポップスもやんの?
それから随分帰宅が遅いようだけど、何時頃までやんの?
日曜日もやんの?
勉強も?
楽しいのかな?
それじゃ、キミは、いつ遊ぶのだろうか。
10月9日(金) 11時31分
テストが終わった。今日、酒盛りに行く。
どうも親に言い訳して、お説教をくらうのは面白くないので、行く前に話してしまった。そうしたらウィスキーをくれた。謎。
10月25日(日) 1時45分
秋をいくらも感じないうちに冬になった。星がきれい。
冬は良い。大気の冷たい透明感は何とも言えない。ちょっと気分が良い。
低俗な事を考えたくない。ボケーとするのもいただけない。本を読むのは面倒臭い。
すると、日記を書く事になる。
カセットテープの需要が供給に追いつかない。思えば相当長時間、新しいレコードを聞いてなかったから、蓄積された欲望が弾けても仕方のない事だろう。
昼はバスケット、夜はランニングと、体を動かす事は非常に良い。実に爽快である、体は。
ところが心の方は大分痛んでいる。やはりバスケというような、スピードを要求されるスポーツは僕には向かないようだ。今日は少し真剣に悩んでしまった。ヘラヘラ笑いながらシュートを決める奴もいるというのに、羨ましい限りだ。
本当に、我ながら実に寂しい性格だから、何かとシリアスに悩む事が多い。普通『シリアス』の前に『柄にもなく』という形容詞がつくのだが、僕は地がそうだからしょうがない。シリアスに悩むのだ。
損な性格だと思う。
気が滅入る。落ち込む。動きが鈍る。やる気がなくなる。
これらは皆、僕がよくなる現象。
人前では高級頭脳所有者のみが悩み、考え、落ち込むのだと、見栄を張って笑っていても、悲しいかな、一人になったら、ドツボと化す。
哲学でもやろうかしら。
雅実ちゃん、どうしたのか。
いい加減、手紙をくれてもいい時期だと思うのだが。明日は日曜だし、早くください。やはり文通はもどかしい。
10月28日(水) 0時4分
馬鹿馬鹿しくなった。
なんだ、あの電話の内容は。沈黙ばかりじゃないか。
「……ウン……」
ばっかり。寝てるのか起きてるのかはっきりしろ!
手紙も出してないとはがっくりきた。これはどう考えても、これ以上の進展は考えられない。いつしか彼女との関係がうやむやのうちに終わってしまうのが頭に浮かぶ。
寂しいな。所詮、僕は口下手なんだ。秀司のように初対面からシラけさせずに話が出来るなんて、ちょっとマネ出来ない才能だよ。
悲しいな。イライラする。僕はまだまだ一人者だな、これは。何故、進学校が男子校しかないんだ? 県を恨むよ。
僕はやはり、共学校のように長く一緒にいて、少しずつ知り合っていかないと、どうにもならない。何を話したら良いのか。話が上手くなりたい。
ふられた政則、僕も君に近い気分になってきたよ。
10月28日(水) 21時39分
今日の宴会にはメインの政則がいなかった。江橋は寒いから、秀司は寝てしまったから欠席だという。member が固定されてきたなぁ。
僕は暗いよ。暗いのに暗いから、勉強に逃げようと思って、ナカムラヤ書店に参考書を買いに行ったら、全く、おしゃべりお節介の酒田が居やがる。秀司と今北も。
テメーら、いー加減にしろよ! 何で学校帰りにいつまでもそんなところでゴロゴロしてんのよ。落ち込んでるのにケラケラ話掛けて来やがって。
それにしても秀司は何で知ってんの? 彼女に夜中に電話を掛ける事を断られたのを。もちろん酒田が言ったんだろうが、すると彼女が話した事になる。
僕も結構、彼女の話を友達に言っているけど、女の子達とはコミュニケーションの方法が違うんだぞ。酒田みたいに平気で他人にも本人にも話すようなヤツが居るから嫌なんだ。
でもまたここで、彼女に
「他人に話した?」
なんて問うような事は絶対にしてはいけん。これ以上、惨めにされてたまるか。プライドがあらぁ。




