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6月 物思う18歳 2つの死

 

 6月8日(水) 晴 0時16分

 

 月日の流れは速く、早や月は変わり水無月。


「季節の変わり目。風邪などひかないようにね」


とミスDJが言った頃には、倦怠感一杯の身体をベットに横たえていた。

 

 家中で風邪が蔓延して、皆がケチョンケチョンと苦しんでいるのに、


「何故僕は大丈夫なのかなぁ?」


と訝しく思っていた折の事。意志の力が強まってひかなかったわけでなく、まるで最後の楽しみとばかりにひいてしまった。

 そしてそれは強烈な事この上なく、4日間も学校をサボって、級友達の話題にまた華を添えてしまったのだ。

 

 まだ治っていないけど情けないから風邪の話はもう止めて、他の話を書きませう。


 随分書いてなかったから、書きたい事は一杯ある筈なのだが、時間の経過は冷たいもので、感動も怒りも喜びも皆連れ去ってしまう。まぁ、僕の怠慢の責任ではあるが。

 そこで、新鮮なものだけ書いて、後は思い出すのを待ちましょう。難しい事だね。

 

 学校の火災訓練で校庭に出たので、人が入り混じって、余り話をせん連中とも話をしたのだが、彼等は僕が病欠している間に、僕の話題で、楽しく盛り上がったそうだ。意外だ。今のクラスじゃ、僕の知名度は低い筈なのだが。

 話題の人物になったという話を、余り真に受けて調子に乗って失敗しないように、眉に唾しておくけど、いくらかでも嬉しかった。

 嬉しくてその後の自習時間に少し、はしゃいでしまった。

 

 

 助っ人くんが弓道部部活の帰り道


「キミ、チュツチュツしたの?」


と聞くから


「病気して居たから、そんな暇ないよ」


と言ってやった。

 そんな言い訳も少なからず悔しいが。当の彼は


「オレ、三十回位しちゃった〜」


と意気揚々な台詞を吐いたが、通常通りショボショボして見えるので、そうは聞こえない。

 僕は少しドキッとし、かなり羨ましかった。ならば相手だが、僕が知るお相手は二人。そこまでの仲になったであろうと憶測出来る子は、他は知らない。

 僕が妄想の世界に生きている間に、世間はそんなに生々しくなっていたのか……。チェッ。

 そして意地の悪い事に彼を構い始めたのだ。


「明日、校内掲示板に書こうっと!」


ヘヘン。僕が寂しい思いをしているのに楽しんでいるのだから、少し位からかっても良いだろう。陰気かな?

 焦り出した彼は


「えっ?!キミ、キミ、ジュース奢るから〜」

「いらないも〜ん」

「……」

「ウへへ、僕今夜寝れないなぁ〜」

「キミがそんな事を言ったんじゃ、僕が寝れないよ〜。キミ()()しかその事知らないよ。今何気なく言ってしまったんだよ〜」

 

嬉しかった。好意的にも、自分の秘密を僕()()に教えてくれたから。

 僕が絶対になり得ない、飄々とした助っ人くん。ありがとう。さておき、今後どう構おうかな。 

 

 

 風邪で勉強どころか、本も読まなかった一週間。流石に惚けていた。もう生活態度全体がだらしない。それをさほど恥ずかしいと思わない所に、大きな間違いがある。

 僕の意志や理性なんて、羽毛の如き軽いものである事が分かる。それでも、明るく重く勉強の事を考えよう。

 思いっきり可能な限り、必死に勉強する。だって僕はこのパターンが出来なかったらもう浪人決定、それも先行き真っ暗の浪人なのだから。


 勉強を始めるに当り僕は考えた。軽く一言言ってから始めようと。即ち


「さーて、勉強すっか」


とか。ちょっと気に入らないけど、


「いつまでもこだわってるとまた始められないから、時には妥協も必要」


なんて思ってみたり。


 顔つきを変えてがんばりましょう。僕はまだスタートの言葉を発していない。明日からだろうね。           

         2時6分




 6月10日(金) 晴 蒸し暑い 夕刻軽い雷と伴に激しい雨 3時5分


 何より知識不足は痛い。こんなに忙しくなる時期まで何故もっと切迫して考えなかったのか。悔やむのすら腹立たしい。

 勉強をせねば、読書をせねば。

 言葉を知らない。気の利いた事を言おうにも、内面告白に及ぼうにも、言葉を持っていない。

 あぁ、読みが浅いのだ。もっと深く思慮せねばならぬ。

 

 僕が言葉を必要としているのは、人と付き合う為。自分はそこに一番ウエイトを置いてしまって、いわば囚われている所為で全く愚かにも思えるのだが、何にせよ物事を考える事が好きなのだ。

 だから、今、知識不足の後悔がウロウロと渦巻いて底辺に漂っているのは当然の事である。


 

 表面的『友達』では無い、真の友でいる事は、実に有意義な事なのだが、それには人としての価値が必要とされる。

 ライト感覚が主流の昨今の世の中で、ヘビィな人間関係を築こうと言うのだから、自分の内部世界がある一定のレベルで構築されていなければ、お相手にならない。言わばお座なりの付き合いが空々しく生じるのだ。

 自分の世界・他人の入る余地のない独自のカラーの世界を、模索していくのが精神発達と言うのならば、そのソースは僕の場合書物でしかない。書物は素晴らしい。

 

 やる事はあるし、つつけば膨らむので嘆息も仕方ないが、現状を見つめねば道は開かれない。思えば長い道のりだ。     

        3時39分




 6月11日(土) 曇のち雨


 昨日、登校したら中学の時の同級生の死去の知らせが。死んだと聞かされ驚き、当り前の事を問うのみで、それ以上には思考は及ばないのである。

 

 彼女は中学を伴に過した確かに級友で、会話も交わした仲であった。その知らせを聞いて驚きを持ったまま黙って席に着いてしまう。かつての級友達と集い相談し葬式に参列しても、御経が聞こえ女の子達のすすり泣きが聞こえても、その思いは何ら変わらなかった。これが今のところ僕に向けられた死なのだ。

 

 僕にとって死とは、死者とは、生活の中に開いた空洞であり、沈黙であり、欠如なのだ。

 

 最も憐れむべきは死者本人であるだろうが、どうしても消えてしまった当人の事を思うよりも、深く悲しみに満ちている周りの人々の姿に、気持ちが寄ってしまう。


 人は死んではならぬ。これ程までに人を悲しませ想わせ、そして迷惑を掛けるのだから。

 自分が死んだ時にどれ位の人が泣いてくれるのか。それがその人の価値であり、願いとも言えるのではないか。

 

 

 奇しくも、この若い命と前後して枯れて熟した命、父の恩師、また仲人であり、僕自身も可愛がってもらった、元大学教授もお亡くなりになった。葬式なんか続いて欲しくないに決まっている。

 

 田舎町の裏通りでの葬式も、親族だけで静かにと願うにもかかわらず、一キロにも及ぶ花輪の列が出来てしまう葬式も、その残された者達にどれ程の事を思わせるのか。

 

 人は大きな存在なのだ。

 



 努力したものはそれに見合う成果は必ず得られ、その喜びを手に出来る。勉強をいい加減にあしらっていた僕は、やはり満足した結果は与えられなかった。

 何も気落ちする事も無い。当然の結果、自然の摂理だ。惨めに思うことも無い。悔いる事も無い。そう思うのは、おかしいだろうか。

 これからグダグダ言うのはもう止める。惨めな自嘲を最も嫌っていたではないか。もう部活も引退した。する事は無い。勉強する事にする。


 日が変わった。僕は一つ齢をとった。

 12日 十八歳 誕生日 

           0時10分




 6月20日(月) 雨

 

 昨日は模試で登校したので、休日無しである。言い方がおかしいが、のんびりしたい日もあるのにそれさえ許さないとは、教育とは何と過酷なものか。

 小論文のテストを受けたが、今更ながら文章作成力が落ちているのに驚かされる。言葉の言い回しが陳腐なものしか出てこないし、発想もつまらない。良いとこ無しの小論文だ。

 他の科目も総括して無惨だった。模試は発奮剤になればよいのだそうだが、その役目を果たしはするが、負の要素も同時に備えている。参った参った。

 

 今日は久し振りに、真面目に眠いのを我慢してまで勉強した。

 それと言うのもロッカーが馬鹿にするからだ。チキショウ、そんなにお前は賢いのかよ。いつからそんなに成績があがったんだよ。人を見下すようになったのかよ。

 彼があそこまで言うのは、やはり彼の日々の努力の賜物なのだろうか。僕を本気で低く見ているのだろうか。努力には頷いてやれるが、見下しているのなら許せないぞ。おい、見てろよ。俺は並じゃないぜ。それを今に教えてやるからな。その時が楽しみだぜ。

 

 参加出来なかったが、一週間前に弓道大会の決勝戦があった。やはり負けてしまったそうな。それでも悔いを残すのは贅沢だ。厳粛な雰囲気が良かったそうだ。羨ましい限りだ。

 

 教育実習生がくだけた。つまり、まぁ、日常の会話をした。何が笑えたのか。あんな人が教育者になるのかと思うと、教師なんて誰でも出来る様に思われる。燃える教育者を切望する次第で御座います。

 

 体育は疲れる。何もしなくても疲れんだ、バーロウ。兼部のバーロウ。あぁ、力が欲しい。健康な肉体が欲しい。敏捷に動く身体が欲しい。

 齢十八、男一匹。頭で食うにも元気が要るよ。元気になろう。




 6月24日(金) 曇のち雨 走りに行ったらグレーの世界

 

 凄くもったいない気がする。そしてそれをもう取り戻せない。

 

 日記の日付も本当にもったいなく月日は過ぎていってしまう。何も成し得ていない。眠たいとか体裁とか、恐らくは普通の事を考えている時間ばかりで一日が終わった日が何日ある事か。

 

 十八歳、十八年も生きてきて、人として最も物思う時なのに、その力が与えられている時なのに。それを無為に過ごしてしまう。  

 なんて怖ろしくもったいない事だ。今までそうして過ごしてしまったと思うと、虚無感に襲われる。

 

 日々自分を豊かにする為だけに、文字を追い絵画を見て文を作り周囲を見渡す。そんな教育ってないだろうか。 

 思春期に入ったら全ての束縛を取り払い、自分を磨く事だけに専念させる。あぁ、本当にそんな事が出来たらなぁ。空っぽの人間何て居なくなると思うのだが。  

 頭が悪くても、本を読みたく無くても、オートバイに乗りたいと思うかも知れないし。若者が熱く燃えだしたら、凄い事も期待できると思うけどな。思想が多様化してゲリラが花盛り何て事にもなりそうだが、捨てがたい意見だ。

 十五から十八歳まで、図書館、大資料館に通うなんてのもいいな。実験室、実験場もあって、勉強の為の努力を自分でする所だ。運動場でスポーツばかりは頂けない。まず頭を、何より精神を豊かにする為の所なのだから。そこで四年間、自分の好きな事を見つけて、後に大学で狭く深く学ぶのだ。

 

 だってな、この受験地獄じゃな。失敗する事だって多いし、その人の才だって芽が出るまでに至らぬまま、受験の所為で人生が決まったりするじゃないか。やる気無くすぜ。

 

 確かに数学が出来なくたっていいやと思うけど、それはやはり寂しい事だ。一方面だけ欠如したら、人間として異常なんだ。僕は一生これを意識して生きていくだろう。

 数学を見る度に自らを嘲って。







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