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7月 文化祭 憧れ『バンカラ』 さようなら金パ

 

 7月2日(金) 父の誕生日

 

 長妹と母の会話が、廊下の向こうから自室まで流れてくる。

「学校で習ったの。受精の話なんだよ。精子がね、卵細胞と○☆□△」

……全く。俺は絶対にこんな話は親としなかった。今でもせん。断然しない。あの子は何を思っているのか? 何も思っていないのだろうなぁ。

 

 こうしてみると、自分はいかにナイーブか。と言うか、普通に男の子は恥ずかしがるものなのだが。やはり女の子より男の子の方が可愛いと言う、僕の自論は間違っていない。




 7月3日(土) 晴 お月様きれい


 期末テストが終わった。嬉しいな。解放感、あっ解放感、と。


 頭髪が短いものだから、すぐに無意識にいじちゃって、頭皮を傷つけちゃう。良くないネ。


「毛が伸びたね」


と皆が言うが、素直に喜べない。視線がそこに当てられていると思うと


「ほっとけ!」


と言ってしまう。僕の言動は間違っていない。断然


「ほっとけ!!」


 

 やはりパックが終るのは悲しい。いつか誰かの投稿に


「終る事があるのなら、それは何かが起こる時なのではないか」


というのがあったが、本当に時代は変わりつつある。

 戦後の荒廃から経済大国ニッポンとなるまでの高度経済成長。輝かしい繁栄の時代は過ぎ、技術力・働き者の日本にも、暗い影が訪れつつある様だ。世の中や経済と同様に、人間の在り方も変化している。 

 

 僕の憧れ『バンカラ学生』。

身なりが粗末な事も誇りとし、全てが真剣であった若者達。

 また、その結果が悪しき物となったにせよ、それぞれの信じる事の為に大勢の人々が動いた学生紛争。

 そういったひたむきな行動・意志は今、コントやギャグのネタとして、下卑た笑いに晒されている。『シリアス』とか『マジ』という言葉は別の意味を持つようになった。シラケの世代が今の若者なのである。

 

 僕の身近な例だと今の生徒会で、ガッカリするものだ。何をしようにも反応は弱く、無責任でいて、文句を言う時だけすごい勢い。そんな連中を相手に熱くなれたりするものか。それでいて、自分ら内輪だけで楽しんでいる。ごっこを楽しむ生徒会。

 

 僕が求める時代・バンカラの時代はもう二度と戻ってこないのか。汗や涙や、ブラウン管では物笑いの種にしかならない熱いものを、僕が手にする事はもう無いのか。奮闘や情熱が尊ばれる、そんな時代がもう一度来たのなら、また深夜放送の時代が来る。

 金パ存続の集会はその兆候と言えるかもしれない。

 


 学校の行事として、ひとまず期末テストが終ったので、次なる重大事はもちろん文化祭だ。

 遂に実行委員になるのは諦めてしまったが、まだ弓道部がある。これにガンバロウ。

 隣の女子高の文化祭を参考に見学に行ったが、結構苦労していた様である。女子であるから、こまめな仕事を根気よくやったのであろうが、果たしてうちは何をするにしても出来るのであろうか。見られないものにならない様にしなければ。

 

 清楚ちゃんに返事を書かないとなぁ。

 

 親友にも書かないと。国鉄『チャレンジ二万キロ』に参加して紀伊半島へ行ったそうだ。




 7月13日(火) 2時

 

 パックに手紙を書いたのだが、気が乗らず次が続かない。期末テストの後、何もしとらんから惚けとる。


 しかし何と言うか、パックが後二週間で終了してしまったら、毎週心待ちにするものが無くなってしまうな。残るはパタリロ(魔夜峰央氏作アニメ)だけになってしまう。悲しいな。

 一週間というサイクルで区切りが無くなると、けじめがつかないので精神的に怠惰になる怖れがある。

 また何か始まるか。それとも、いよいよをもってテレビ・ラジオから離れるか。そういう歳になったのか。


 遂に、この押し迫った日付・四日前になってから、文化祭に向けて動き出した。

 と言うか、周囲の連中が活動を始めた。学校という大規模な集団では、一つの事に向けて皆が皆、同じ目的や満足感の為に動く事は出来ないようだ。僕の求め憧れる『バンカラ』のひたむきさは、そう例えれば学生寮位の人数でなければ、凡人の統率力は無理らしい。

 でも今日、五人で段ボールと格闘している時間は、ちょっとそんな気分に浸れた。嬉しかったな。

 

 パックの事を考えていた。


「手紙が来る限りあの番組は続けられる」

「タイムマシンの様なものだから」


そう、パックがこれだけ十五年間続くのは主人公・主役が手紙であったからなんだ。二人のDJはあくまでも読み手に徹したからこそ、これだけの支持を得続けているんだ。一人の人間がどんなに多くの考えを持っていようとも、どれ程話術が巧みであろうとも、多寡が知れている。人間の知識なんて無限にあるもんじゃない。それでも数年続くのは、パーソナリティーの魅力とリスナーの交代だ。しばらく聞く、飽きる、止める。それを何年か続ければ、年代も変わる。そのリレーのバトンは永遠に続く。

 こんなタイプの番組がまた出来るかな。いや、深夜と言う魔法のベールの中でこそ出来た事。あぁ、素適な事なんだなぁ。

 

 健康が欲しい。健康さえあれば、何でも出来るのにな。




 7月15日(木) 極めて晴

 

 「漫画なんて」


とバカにすべきではない。特に最近のマンガ。マンガで泣ける事は難しくない。その恐るべし影響力。人生観さえ変えられる。リアリティーが充満している。身近にありそうで、それでいて遠いストーリーとキャラ。

 世の大人達は軽視するが、その先入観は早めに捨てるべきだ。皆の求める物が、生活が、事実が、正義が、悪が、全てそこに在り全てを持って存在しているのだから。

 もう単に子供の娯楽としての物とは、考えられない。

 

 大人と言うものは、いつの日になってもどんな優秀な人でも、子供と分かり合える日は来ない様に思える。現在子供である俺が言うのだから間違いない。分かり合えないだろうと思いながら育っている世代が、今現存して大人になっていくのだから。

 

 夢中になって読み、共感を得、とても憧れ、素適に思って読んだのだが、何と我が現実の情けない、いや、悲しい事だろう。この現実との差からマンガは生まれる。

 


 夏期講習の予定日をカレンダーに丸を付けながら思った。


「これを親に知られるのは嫌だな」


何故か? 母親は煩い。

 

「明日からテストじゃない」

「まぁ、○○に行くの?」


とか。しかしこれを煩がって良いのか? とも思う。

 母親は気難しい時期の、その上我儘な息子と、何らかの会話の糸口を欲しているのかも知れないじゃないか。それを皮肉と受け止めて、怒鳴り返されたら腹も立つだろう。

 彼女も性格が捩れてきているのかもしれない、と最近の様子を思い返していた。妹達も反抗するし、口だけでは言う通りにならない。腹も立つだろうな、うん。そうなれば、解釈し理解できる俺こそが力になって我慢すべきなんだろうな。

 でも……、煩い。俺は部屋の中を小突き回された挙句、内容についてとやかく言われたくない。恐らくそういう歳の所為だろう。

 今、青春を過ごしている俺だって、大人になればその時の年頃の子供の気持ちなんて、きっと何も分からないであろう。頭の中にあってもそれは、過去の物でしかない異質なものだ。

 だから大人は、子供の気持ちを理解しよう何て無駄な事は考えず、子供を子供として見る・扱う・接するように努めるべきだと思う。あるものをあるがまま。

 


 今日思ったのだが、隣席の級友の性格は僕と共通している。いくらか気の弱い所。付き合いの為、自分の予定を残念だなと思いながらも変更してしまう所。そしてそれを人に黙っている所。何しろ彼は穏やか。

 

 明日から何と文化祭だが、用意の方はよーわからん。僕の様な無責任な不届き者がいるからいけんのだろうが、大丈夫かね。準備し始めた時期も遅いし、こんなものなのかな。どだい、この人数が同じように物事を考えるのは無理なんだろうな。




 7月28日(水) 曇

 

 既に夏休みに入って一週間が過ぎてしまった。志と相反して自堕落な毎日。もう文字で怒る気も無くなった。行動、行動。

 

 どんどんこうして記しておかないと、直ぐに、勿体無い気になる。今思っている事がそのまま消えていくと思うと、あー勿体無い。因みに今は久し振りに字を書いているなと思っているし、あのエロ本を買ったのは勿体無かったな、とすごく仕様の無い事も考えている。

 文化祭の事もまだ書いてなかった。当然書いておくべきであろう。ではまず、その概要から。


 

 我が男子高祭は金曜午後の仮装行列から始まった。今にも降り出しそうな黒雲の下、生徒会長の今一ピンと来ないスピーチに煽られて、元気無くパレードは動き出した。校庭に一同に集まった仮装行列。全二十一クラスを眺めていたかったが、我は『ぬりかべ』に入る為、眼鏡を外したうえに視界が狭いので良く見えん。

 

 特筆すべきは、二年三組のその名も『ビビンバ』。全員がパプアニューギニアのコスチュームを着て肌を黒く塗った。パレードが始まる前に三組を覗くと、もの凄い異臭が押し寄せてきた。部屋を閉め切って皆で暴れたそうである。

 それが何ら仮装の役に立つのか?

気分が昂ぶってそんな行動に出たのか?

鼓舞する為の行動なのか?

 定かではないが、人体から発せられると思しき臭いであったから、余計に無気味であった。

 

 他にも『おにぎり』がヨタヨタ歩いていたり、『テニスギャル』がはしゃいでいたり。恥も陰面もしっかり待って、学校から本町辺りをうろつく。本町通りの人々は実に楽しそうに観覧していたが、自分『ぬりかべ』は歩き辛くさらに殊の外疲れ易く、面白くない。

 それに輪を掛けて思わぬ事態となった。動きやすい連中が列から離れ、道行く人々や観客に握手を求めに行くのである。

 おい、お前ら! 顔が分からないのを良い事に女の子に触りやがって!羨ましすぎるだろう! 

 あぁ、『ぬりかべ』よ。どうしてお前は『ぬりかべ』なの〜。


 パレードは小雨の中、終った。『下駄』とか『破れ傘』とか歩き辛かった連中は腹いせなのか、学校に戻るとその作品を脱ぎ捨て、壊し始める。

 僕はカツラが心配だったので早々に引き揚げたが、その不穏な気配に、校舎玄関から振り返って後ろを見下ろすと、背中がいくらかヒンヤリと。

 そのスピード。破壊力。奇妙な笑い声。見開いた目。……恐怖。

 こりゃちょっと……。精神的お祭り作用なのか、幾分狂気さえ感じる。

 派手に暴れるとクレームがつくのでは、と危惧したが大事には至らなかった様で、何より。

 

 明くる日の土曜。まだ午前中は準備時間になっていた。僕は無責任にも室内を一周し、


「ダメだ、こりゃ〜」


等と口走っていたのだが。

 我がクラスの出し物。題して『開けてびっくり玉手箱』。大小様々な箱がクラス内に点在していて、中身が何か当てるゲーム。午後からちゃんとお客様がいらっしゃるでやんの。

 いやぁー、最後のオチとして、箱から出てくる着ぐるみゴリラの人気の凄い事。あれが居なければただの箱。女の子はキャアキャア言うし、男は楽しいし暑いし……グェ。

 でも、女の子って地とぶりっ子の区別がつかん。とりあえず、ゴリラは楽しく、中の級友はスケベである事が今更ながら判明した。

 

 そして体育館でのロックフェス!

 Free Jam Ⅲ! 

 これは疲れたが、サクラは面白い。ロッカーのバンド『ミギラ』を並以上のバンドに見せたのは、一重に盛り上げ隊(サクラ)のおかげである事を忘れてはならん。

 

 フォークダンス。出来るもんだねぇ、割と。ありゃ絶対に参加して良かったよ。石腰掛組は寂しいもの。うん。

 優しい女の子、誘ってくれてありがとう。

 

 そしてそして後夜祭。それなりに『祭り』という感じがした。騒ぎ昂揚した気分にいくらかなれた。文化祭何て、シラケの連続だろうと思っていたが、これは嬉しい誤算だった。

 

 帰り際、校門から出て見上げた校舎。祭りの後の寂しさが、そこにあった。

 



 

 金パは遂に、朝日新聞の教養の集積箇所である、あの偉大な『天声人語』にまで神出してきた。それも絶賛されているではないか。流石、金パ! 

 学生だけに評価される、偏った馴れ合い番組じゃない。良かった良かったと思う反面、また一入、終了が悲しい。惜しまれる。こういった文化人達がもうちょっと抗議なりしてくれれば……。いや、やはり若者の反対が最も効果がある様に思われる。




 7月30日(金) 3時

 

 金パ放送時間1~3時。終了直後。

 

 僕の投稿手紙が最終回のパックで読まれた。


 嬉しい。共に喜べる人が少ない。自己陶酔が一番。

 那智様と冬美様のデュエット曲『青山レイニーナイト』も買った。

 

 パックよ。素晴らしいよ、お前は。

 



 7月31日(土)

 

 何故こんなにも重苦しく、パックが頭の中にあるのだろう。僕はリスナーとしては駆け出しの四年生で、そんなにも、こんなにも気にする事があるのだろうか。

 

 今とても素直になれそうだ。いや、素直です。胸ときめく音楽を聞いたから。『銀河鉄道999』本当に好きだったものね。曲を聞いただけで気分が落ち着くって、いいね。こんな事ってあるんだね。

 本当に喜んでいたもの、嬉しかったもの、感動したものは、きっと未来永久に変わらないものなんだろう。いつになっても、その鍵 key = 音楽が引っかかれば、鮮やかにスクリーンとなって脳裏に浮かぶ。良いな。感動は多い方がいい。思い出せる key が増えるから。

 

 若いくせに悟ったような顔と冷めた目で、

「シラケた」

何て言っている人が、早く老けるのは当然である。

 目を輝かせて純粋な喜びを、感動を、胸の内に仕舞い込んでいる人。そんな人がこれからの文化・社会を創造するのだ。


 グダグダ屁理屈をこねる前に、先ず驚こう。感動しよう。自ずと人間の魅力も輝き出すだろう。

 






 僕の手紙が占拠した時間は、およそ八分。

 短いと言えばそれっきり。でも金パメイトとして、これ以上の喜びが名誉が、他にあるだろうか。

 録音テープを繰り返し聞いていても、どうしても客観的になれない。その手紙内容の効果が判断出来ない。果して、これが那智様チャコ様お二人の心に、どう響いたのか。聞いているリスナー側には、どのように感じられたのか、分からない。

 

 でも、いいんだ、読まれたのだから。

 

 那智様が便箋を手に持ち、声で演じ、それに冬美様が相槌を打ったんだ。













 その時の気持ちがわかるかい?

 














 サーカス(歌手)のLPを借りて来よう。


 Billy Joel(アメリカ 歌手)のカセットテープも大分痛んでいる。聞いたものね、これ。凄かったからね。

 

 

 こんな夜に寝てしまうのは、如何にも勿体無いかな。明日、弓道部合宿に行くからもう寝るか。





〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜

 金パ最終回のその後   投稿原稿下書き

 

 パック終了

 沈黙 

 愛川欽也が破る

 貧乏学生から打ち上げの誘い

 一瞬盛り上がるスタジオ

 野沢の寂しい声 ジェームス・ディーン

 チャコも帰宅を同意

 愛川、言葉少なく頷く

 

 外に出ると金パファンが道を埋めていた

 二人が姿を現すと一際昂まる声

 やがて波がひくように静まる 

 二人の挨拶 

 ボソボソ言う那智 

 気丈にも泣かない冬美

 

 熊沢の運転するTBS社名入り黒塗りのロールスロイスが入ってくる

 笑いかける二人

 渋い那智 

 一段落着く車内 

 沈黙

 チャコ一言

「上手くなったのね、熊沢さん」

 苦笑する熊沢 

 それっきり沈む車内

 

 チャコの家に着く 

 二人に別れを告げる

 那智と目が合うチャコ  

 見つめあう二人

 感情が昂まる 

 「おやすみ」

 少し間があってチャコ           

 「うん、おやすみ、ナッチャン」

 走り出す車 


 自宅に入ると帰りを待ちわびていた猫共がチャコに群がる

 それを撫でながらふと手を止めるチャコ

 そしていきなり、その一匹を抱きしめ 

 初めて頬を伝う 一筋の涙

 

 一方、「熊沢さん、稽古場へ」那智が言う

 熊沢は黙ってうなずく

 「じゃあ」

 「うん」

 男の短いやり取りの中に全てが含まれている

 

 暗い稽古場の中 手探りでライトをつけ

 粗末な椅子に腰かけると、机上に誰かの煙草が目に入る

 一本に火をつけ深く吸い込み吐き出す

 チャコの幻

 と、あろうことか那智の目に涙が

 照れたように一人笑い

 「煙が……胃に沁みるなぁ……」

 腹をさすった          

                               

           Brown 

〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜~〜



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