43 神谷冬美の想い
希美と響の関係は、かなり進展したようだったけど、それをあまりよく思わない人が……
希美さんとほんの少しだけ逢って話す事が出来た…… いや、ちょっとだけ抱き合う事も出来た。まあ、それに関しては想定外の出来事だったが…… でも、とても良い時間だったと思う。ただ今思うと凄く恥ずかしい……
「倉橋君、ちゃんと話せた?」
「えっ、うん…… 少しの間だけだけど」
「響、水嶋さんや未玖さんは一緒じゃなかったのか?」
なんだこいつ、彼女達と約束でもしてたのか?
「ああ、希美さん一人だったよ」
「なによ、伊丹君も誰かと約束してるの?」
神谷さんのご機嫌がちょっと怪しくなって来たような……
「いや、そうじゃないけど、あの三人はいつも一緒にいるイメージだから」
まあ僕達が知るところでは、あの三人はいつも一緒だけど…… そんな話をしてる時だった。
「あっ、冬美達三人は交代休憩に行って来て!」
「うん、じゃあ、あとよろしくね!」
クラスの女子にそう言われたので僕は希美さんにメールをした。
『今から休憩なので一緒に回りませんか』
すると、すぐに返事が返って来た。
『今、体育館の側にいるんだけど』
『今から行きますので動かないでください』
そうメールをして急いで行ってみると二人の男子生徒が一緒にいた。
「お待たせしました。行きましょう」
そう言って希美さんの手を握って行こうとしたら……
「ちょっと、今僕達が彼女さんと話をしてるんだけど」
うちの高校にもこんな奴がいたとは……
「この人は僕の彼女なんだけど」
僕はこの時とばかりに言ってしまった。
しかし、その男達は……
「そうか、僕ちゃんの彼女さんなんだ」
馬鹿にした口調で仲間二人にニヤニヤと笑われてしまった。
「相手にしちゃダメよ」
希美さんはそう言うけど…… 僕は、彼等のその態度が気に入らなかった。と言うよりイラついていた…… 僕にもこんな感情があったとは……
『バキッ!』
その瞬間僕は、体育館の壁に拳を叩きつけ彼等を睨みつけた。
彼等はそんな僕を見て一瞬怯んだように見えた。そして、関わらない方が良いとでも思ったのか行ってしまった。
「倉橋、手大丈夫?」
希美さんが僕の手を心配しているけど…… それより僕は壁に穴を開けてしまった事が心配だった。まさか、こんなに脆い壁だったとは……
「あーあっ、穴、開けちゃったね!」
「来夢さん!?」
僕と希美さんは同時に声を上げてしまった。それもそのはず、僕が開けた穴から来夢が顔を出していたからだ。この光景は非常に滑稽だ。
「どうしてここにいるんですか!」
僕が訊くと……
「だって、この前作ってくれた…… えっと、なんだっけ? あのコロコロした可愛い奴、えっと、た、たこ焼きだっけ? あれ、食べれるんでしょう」
来夢は、たこ焼きがお気に入りになってしまったようだ。
「来夢さん、今から倉橋と一緒に食べに行くから一緒にどうですか?」
えっと…… このタイミングで誘わなくても……
「うん、でも、響君が開けた穴を塞いでからだね!」
そう言って来夢は穴から顔を引っ込めた。すると割れていた穴がみるみると塞がった。
「これ、どういう仕組みですか?」
僕が来夢に訊いたけど……
「いいから、いいから! それよりたこ焼き食べに行こう」
何だか狐に化かされたようなそんな感じだったが、まあ、良いか! でも、これで希美さんと二人きりの時間を来夢に奪われてしまった。
「あの、たこ焼きを三パック下さい」
「はーい」
希美さんがそう声を掛けてくれた。
「あれ、倉橋君どうしたの?」
クラスの女子にそう訊かれた。
「えっと…… たこ焼きを食べたいって事だったから」
「へえ、ひょっとして彼女さん? あれ、どっち?」
そうか、希美さんと来夢もいるからな……
「あっ、私は響君の従姉妹の胡桃だから!」
来夢はまた、適当な事を言っているけど……
「そうなんだ、あっ、マヨネーズはお好みで掛けてね!」
まあ、こっちの方では付ける人は多い。本場ではそんな事もないだろうけど……
「へぇー、マヨネーズか!」
そう言って来夢は掛けてるけど、僕は掛けない派だから! でも、希美さんは隅の方に入れていた。つけながら食べるのかな……
「あっ、マヨネーズ美味しい!」
来夢はその場でひとつ食べたようだ!
「えっ、マヨネーズ合う?」
希美さんってマヨネーズ派なのか…… いや、そうじゃない! ここじゃなくて中で食べようよ…… 僕は三パック分のお金を払って教室の中へ入って行った。
「へぇー、教室でイートインだね」
「うん、そうだね! ねえ、倉橋の机はどこ?」
「えっと、ここですけど……」
自然と自分の机に座ってしまうもんだな。
「ねえ、ちょっとだけ代わってよ!」
えっ、希美さんが僕の机に…… 僕は、平静を装いながら机を代わった。
「うん、これが倉橋の机か!」
「別にどこでも変わらないんじゃ無い?」
そう言う来夢って結構無神経なんだな……
たこ焼きを満喫した後、他のところを回ろうと思っていたけど……
「あっ、私帰るね!」
たこ焼きを食べた来夢は満足気にタイムマシンへ帰って行った。本当にそれだけのために来たのか……
でも、これで希美さんと二人きりになれる。
文化祭も無事終わる事が出来き、ちょっとホッとしている神谷冬美です。でも、倉橋君の子孫なのか従姉妹なのか知らないけど、来夢って女の子と希美さんまで来てた。彼女が来てたから気を使って倉橋君を行かせてしまったけど…… やっぱり、譲れない! でも、倉橋君は彼女の事を選ぶんだろうと思う。でも、振られても良いからちゃんと告白したい。
「倉橋君、今日ちょっと時間ある?」
私はちょっと訊いてみた。
「うん、大丈夫だけど」
「学校が終わった後、話があるから」
「えっ、うん解った」
「えっ、どっかに遊びに行くのか!」
そうだった…… 私が倉橋君を誘うと、もれなく伊丹が付いて来るんだった……
「龍己、悪いけど今日は外してくれないか」
えっ、倉橋君は何か察知してる?
「そうか…… 解った。あまり言い過ぎるなよ」
「ああ……」
この二人は何か感じてる…… そうか、私は振られるんだよね……
放課後、私は倉橋君と一緒に美術館のある公園へ来た。
「倉橋君、私ね…… あなたのことが、好きなの……」
私はついに、この事を倉橋君に言ってしまった。でも、彼は私とは違う方向を見ている。そう、あなたは私の事を想ってはいない。それは、解っているんだけど……
「高校に入ってからずっと好きだったの! いつもあなたの事ばかり見てた…… 知ってた?」
倉橋君は、何も言わずに黙っている。
「ねえ、何か言ってよ!」
「神谷さん、その…… ごめん、僕は応えられない…… 好きな人がいるんだ」
「うん、知ってる…… 希美さんだよね……」
「うん」
私はやっぱり、振られてしまった…… 仕方ないよね…… 悔しいけど、希美には敵わないかな……
私は公園のベンチに座り、項垂れてしまった。
「そうだよね、私より彼女の方が可愛いもんね!」
私は今にも泣き出しそうに…… でも、私の瞳は涙で濡れている……
「神谷さん、送るよ!」
倉橋君がそう言ってくれたけど……
「ううん、大丈夫…… 話を聞いてくれてありがとう」
私はそう言って彼から離れようとした時、何も無いところで躓いて倒れてしまった。
「神谷さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫、大丈夫だから…… 倉橋君、こんな時まで優しくしないで!」
私がそう言った時、彼は何も出来ずに、ただ心配そうな顔で立っていた。
その後、私は倉橋君の側からそっと離れて行った……
あーあっ、明日からどうしよう……
倉橋と神谷さんが逢って話をしてる時、私冬野希美は、智ちゃんと未玖と三人でいた。
「ねえ希美、その後響君とはどうなの?」
どうなのって未玖に言われたけど、普通というか、別に何も無いかな……
「えっ、別に何も無いよ! 普通だけど……」
「いいの、そんな余裕で、今頃同じクラスの可愛い女子に告白されてるかもよ」
まあ、無い訳では無いと思う。倉橋って普通に格好良いからね!
「大丈夫だよ! って私は別に付き合って無いからね!」
「そんな事言ってて良いの? そのうち声も掛けてもらえなくなって他の可愛い女子と手を繋いで歩いてるかもよ」
「もう、智ちゃんやめてよ!」
「いやいや、腕を組んでるかも…… 抱き合ってキスしてたりして!」
「未玖、そ、そんな事無いから……」
未玖の話を聞いて私は、つい大きい声を出してしまったけど…… その後私の声は尻窄みに小さくなってしまった。
「もう、解りやすいな、希美、彼の事好きなんでしょう!」
「えっ、それは……」
好きだよ…… 倉橋の事が大好き! でも、良いのかな……
「本当に好きなら響君に告らないと」
「えっ、そんな…… 私が告るの?」
「好きなんでしょう!」
確かに好きだけど、私が告るの? 普通男子が告るんじゃ……
「うん…… 私、嫌われたりしないかな……」
「何言ってるの、嫌われるならとっくに嫌われてるわよ!」
そうかも知れないけど…… でも、彼の事信じて良いのかな……
神谷の気持ちは、響に届く事は無かった。しかし、自分の想いを打ち明けた事でまた、前に進めるのかも知れない。




