36 来孫
舞龍は龍己の来孫だという事が判った。という事は、舞龍は龍己の事を利用しようと近付いて来たのか……
伊丹舞龍、これが彼女の正式な名前だ。
「来夢さんは舞龍の名字は知らなかったんですか?」
「いや、知ってたけど、ほとんど下の名前でしか呼んでなかったから、気にした事も無かったよ」
しかも、舞龍は龍己の来孫だったとは……
「なあ響、その…… 舞龍って言うおばさんは悪い人なのか」
「ぷっ、おばさんだって!」
来夢が、噴き出しながらそう笑っている。
「えっ、だっておばさんなんだろう」
来夢は龍己のそばへ行き顔を近付けて言った。
「龍己君だっけ?」
「あ、あの、近いです……」
来夢があまりにも龍己に近づき過ぎなので神谷さんが心配そうに見ています。それなのに龍己の奴は顔が真っ赤で見ていられない。
「ねえ、私もおばさんに見える!」
来夢の奴、調子に乗ってるな、龍己はもう来夢にもてあそばれている状態だな……
「来夢さん、いい加減にしてください!」
僕はつい叫んでしまった。まったく来夢の奴は何を考えているのか……
「い、いいえ、綺麗なお姉さんに見えます」
龍己、それは言い過ぎだろうと僕は思ったが、それを聞いた来夢は……
「いやだ、綺麗なお姉さんだって! 君、判ってるじゃん」
来夢は何をしたいのか……
「龍己は女なら誰でも良いのね……」
神谷さんはそう言いながらプイッと首を振って龍己と反対側を向いた。彼女はちょっとご立腹のようだが、でも、この二人は付き合ってはいないよな……
「うふふ、でもね、舞龍も私と同じ歳なんだよ!」
「えーーっ!」
龍己はもちろん、神谷さんも希美さんも驚いていた。
「ねえ、そうは見えないでしょう!」
来夢は同意を求めているけど……
「あの、どうやったら、あんな老け顔になるんですか?」
いや希美さん、それを訊いてどうするの……
舞龍は結構な年齢不詳なのかも知れない。
「あの、来夢さん」
「なに、どうかしたの響君!」
「えっと…… 来夢さんの名字って、僕と同じなんですよね」
「えっ、今、何故?」
いや、それは…… さっき舞龍が言ってたような、でも……
「えっと、初めて僕と希美さんが未来へ行った時に……」
「ちょっとまて! 未来に行ったのか……」
龍己、今は待ってくれ…… そう思い僕は龍己の話を制した。あとで説明するからな。
「未来で警備局に拘束された時、倉橋来夢って言われていたよな……」
来夢の表情が少し険しくなったと思っていたら、もう隠し切れないとでも思ったようで…… 彼女は静かに口を開いた。
「あーあっ、判らないだろうと思っていたのに、意外と響君って鋭いのね…… そうだよ、私は響君の来孫だよ!」
来夢は開き直ったようにそう言った。
「それで、僕に近付いて来たんですか?」
「ううん、最初は私も知らなかったの! でも、郁子先生と再会したあたりから…… まさかと思って調べたらそうだったの」
それじゃ、舞龍が言ってた事は本当だったのか……
「私も判った時はびっくりしたよ! ちょっぴり残念だけどね、でも、まさか、こんな偶然があるとはね」
前に母さんが、『来夢はやめときなさいよ!』と言っていた事はこういう事だったのか…… まあ、そのつもりは元々無かったけど…… それにしても母さんはどこまで知っているのか。
「それで、舞龍の仲間の賢人の名字は?」
僕は他のメンバーの名字を訊いた。
「えっと、賢人は…… 確か、高山じゃなかったかな…… いや、鷹島だっけかな?」
「えっ、どっちなんですか?」
「うーん、もう七、八年前の話だからね……」
そんないい加減な……
「倉橋、もし賢人の名字が鷹島なら先輩に舞龍が接触した理由になるよね!」
希美さんにそう言われたけど、それってご先祖様に助けを求めてるって事か……
「あれ、じゃあ、未玖さんは?」
「えっと、未玖の名字は…… 山田だ!」
そう言いながら希美さんの顔が曇った。
「それって、未玖さんの来孫は山田颯太って事?」
「なんとなく繋がって来たね」
来夢はそう言うけど…… 本当に繋がっているのか微妙だ。しかも、まだ判らない事がある。いつも舞龍と一緒にいる圭子! それと無駄に筋肉ムキムキ男の鬼崎だっけ……
この二人は単なる舞龍の仲間なだけなのか、それとも誰かと繋がっているのか……
「これって未玖にもちゃんと話した方が良いのかな?」
希美さんは心配そうにそう言った。
まあ、繋がりがあるという事は伝えた方が良いと思うけど……
「伝えても良いけど、彼女がちゃんと理解してくれるかどうかだよね」
来夢のその言葉が虚しく僕には聞こえた。
「とにかく、私が伝える。きっと解ってくれると思う」
希美さんはそう力強く言ったけど良いのかな……
「あの、僕はどうすればいいですか?」
龍己のあんな不安そうな顔は初めて見たかも知れない。
「そうね、舞龍とは接触しないように…… でも、もし向こうから接触して来た時には、あいつらの言う事を聞いちゃダメよ!」
「あっ、はい……」
まあ、龍己から接触する事は無いとは思うが……
「ねえ龍己君、もし舞龍が接触して来たら響君に連絡してくれる?」
「あっ、はい! 必ず連絡します」
はあ…… 龍己の奴、来夢の色仕掛けにやられていなければ良いけど……
「あの、私は誰とも繋がってないから関係無いですよね!」
そうだな、神谷さんは無関係で良いだろう。首を突っ込み過ぎて危険な事に巻き込まれても困るから。
「ええ、あなたは何も知らないという事で……」
「はい……」
うん、これで僕の友達に危害がある事はたぶん無いだろう……
この後、僕達は解散となった。今日は久々にあれを使わずに希美さんを送る事になった。
「ねえ、倉橋は来夢さんと繋がっていて、未玖も山田颯太と繋がっているんでしょう」
「はい、そうですね」
希美さんはちょっと考えたようにして口を開いた。
「私も誰かと繋がっているのかな」
まあ、確かに希美さんにも子孫はいるだろうけど、それが誰なのかは判らないだけだ。
「それは知らない方が良いのかも知れませんよ」
「どうして?」
どうしてと言われても……
「僕は来夢と繋がっているという事だけど、今まで通り普通に話せるかなって……」
「そうか…… 確かに今までと違って気を使うかも知れないよね……」
僕は、希美さんを、部屋の前まで送ってから帰った。
私、冬野希美は、未玖の事が気になっています。やっぱりちゃんと逢ってきちんと話をするべきかな…… 今までは普通に声を掛けたりして普通に付き合って来たけど…… なんだか気不味いです。
でも、皆んなの前で私が伝えると言った訳だから…… 私は意を決して電話をした。
『あれ、希美? どうしたの』
「うん、ちょっと付き合って欲しいんだけど」
『うん、良いけどどうかしたの?』
「うん、ちょっとね……」
『じゃあ、いつものカフェで良い』
「うん……」
そう言って、取り敢えず逢う約束はしたけど…… やっぱり気が重い。なんて話そうかな……
私は約束の時間よりちょっと早めにカフェに着いた。未玖はまだ来ていないようです。
私はメニューを見てからカフェオレを注文したその時、未玖も到着した。
「あっ、私チョコパフェを下さい」
「未玖はパフェが好きだね」
「うん、甘くて冷たくて最高だよ! それでどうしたの?」
「うん…… えっと……」
うーん、やっぱり気不味い。
「何、響君と喧嘩でもしたの?」
「いや、そんなんじゃ無いんだけど……」
なんて話出そうか……
「あっ、そうそう! 私、夏休みになってからなんだけど変な奴に会ったんだよ」
そう言って、未玖は話し始めた。
「えっ、変な奴?」
「うん、私の子孫だって言うのよ、そいつ。最初は新手の口説き文句かと思ったんだけどね」
えっ、それって……
「子孫?」
「笑っちゃうでしょう。でも、大学の爆発事件を予言したの」
「爆発事件!」
「そう、一緒にスカイパークへ行った時だよ」
「あれって、小火騒ぎじゃないの?」
私は否定してしまった。
「そうなんだよ! あれだけ大体的に報道されたのに、いつの間にか小火騒ぎになっていて爆発したはずの校舎もほとんど元に戻っているんだよね」
未玖は、何故他の人達の記憶が変わっているのか判らないのかな……
「スカイパークのUFOだってそうだよ! みんな覚えて無いんだもん。希美も……」
もう、私は黙って入れなくなった……
「未玖、あなたはその子孫だっていう男の人から何か貰わなかった?」
「えっ、希美! なんで男だって解ったの…… 私は変な奴って言ったんだけど」
しまった! 口が滑ってしまった。
「希美、なにか知ってるの? 知ってるなら教えて!」
私は未玖に迫られて、とうと白状してしまった。
「えっ、未来人!」
「うん、その男は山田颯太と言って未玖の曾孫の孫にあたるの」
「曾孫の孫って事は…… あれ、なんて言ったかな……」
「来孫」
「あっ、それだ!」
私は山田から何か貰わなかったかを未玖に訊いた。
「うん、貰った。八枚入りのガムを五個とジッパの壊れた摘みを三つだけど」
「そのガムが何か解る?」
未玖は不思議そうな顔をして……
「知ってるなら早く教えてよ!」
私は、未玖にせがまれ、今解っている事を全て彼女に話した。かなり現実離れした話だけど彼女は解ってくれた。
「それじゃ、普通なら忘却剤を使った時点で忘れるはずの事をあのガムを食べてた所為で私は覚えていたという事?」
「うん、UFOの事も爆発事件のことも」
「そうか、それじゃ私が可笑しくなった訳じゃないんだ」
こんな信じられない話を訊いて納得してくれて良かった。まあ、未玖が山田の事を先に話してくれたから良かったんだけど…… でも、あれはあれで現実離れした話だよね……
四人もの来孫が、関わっている事が判った。これって、単なる偶然なのか? 来夢は偶々の偶然と言っていたけど……




