34 真実
響の母の様子が可笑しい、未来で警備部長と会ってから…… 二十年前に一体何があったのか、響、希美、来夢の三人は過去へ行き調査する事にした。
ここは2004年の城南市、当然十八歳の僕はこの時代には存在していない。
「何処に行くんですか?」
「まあ、北山大学じゃない」
まあ、そうなるだろう。母さんや父さんが横浜へ行ったのは、僕が高校生になってからだから。
「ねえ、あの男性何処かで見た事があると思うんだけど」
希美さんがそう言いながらその男性を見ている。確かにそう言われればそうだけど…… 誰だっけ。
「他人の空似じゃない! 今は取り敢えず、郁子先生を探さないと」
僕達はそう話ながら北山大学へ向かいます。
「来夢さんは僕の母さんの若い頃を知っているんですよね」
「まあね、でも響君だって解るでしょう」
「うーん、僕が小学校に入学した頃の母さんなら」
「幼稚園の頃の記憶はないの?」
うーん、ずっと一緒だった訳じゃないからな…… でも、朝と晩は父さんと母さんと一緒だったんだから解るはずなんだろうけど……
「いや、はっきりとは解らないかな」
独身の頃の母さんってどんな感じなんだろう……
「そんなの可笑しくない」
来夢はそう言うけど……
「意外とそんなものじゃないですか、幼い頃の記憶なんて」
希美さんはそう言ってくれた。何処かの誰かさんと違って優しいです。
「ふーん、そうかな…… 取り敢えず、あそこのカフェで様子を見ようか」
来夢の提案で取り敢えずカフェの中へ入る事になった。
「いらっしゃいませ!」
ウェイトレスさんが注文を取りに来ました。
「あっ、コーヒーを」
「私も」
僕と希美さんはすぐに注文しましたけど……
「来夢さんは?」
希美さんが来夢に訊いていますけど……
「えっと…… あっ、コーヒーをください……」
注文を取ったウェイトレスさんはデシャップの中へ入って行きました。来夢は今になって何か気づいたみたいです。
「響君、後で返すからコーヒー代貸しといて」
なんだ、そういう事か……
「はい、良いですよ」
「来夢さん、コーヒー代も持って無いんですか?」
「希美、未来人の私がこの時代のお金を持っているとでも?」
「あっ、そうか……」
でも、母さんとこでバイトしてるよね……
「希美は持ってるの!」
「私は、九千円くらいは……」
「希美さん、千円札はこの時代まだ夏目漱石だから野口英世の千円札は使えないから」
「えっ!」
希美さんはもう一度、財布の中を見て……
「私、千円札と五千円札ならあるよ!」
それは、現在のお札だよね……
「小銭は?」
「えっと、二百三十七円ですね……」
はあ、仕方がないな……
「それじゃ、僕が三人分払いますよ」
僕がそう言ったら希美さんは気まずそうに言いました。
「私、五千円札はあるから、大丈夫払えるよ!」
彼女は今の五千円札がこの時代で使えない事を知らないようだ。
「希美さん、五千円札って樋口一葉のお札ですよね」
「うん、そうだけど……」
「この時代はそれも使えないです」
「あれ、前の五千円札って誰だっけ?」
この時代、もう少し後の十一月以降なら良かったんだけど……
「この時代は、まだ新渡戸稲造なんですよ! 樋口一葉の五千円札は2004年11月からなんです」
「えっ、新渡戸稲造って誰!」
希美さん、それって本気で言っているのかな……
「じゃあ一万円札も使えないの?」
「いえ、一万円札は福沢諭吉だから使えます」
「はあ、そうなんだ、過去は不便だね……」
まあ、過去の紙幣はなかなか持っていないだろうし、持っていても多分使わないかな、貴重だし……
「ねえ響君、記号番号の色は大丈夫だよね」
そうだ、一度来夢と二十世紀に来た時、褐色の記号番号の一万円札を使って大騒ぎになったんだった。あの時はエラー紙幣という事で何とかなったけど……
「今度は大丈夫です。黒色の記号番号だから」
僕が自信満々に言うと……
「記号番号の色もあるんですね、本当に難しい……」
そう希美さんが言うから何だか可笑しくなった。
「響君、先生が来たよ!」
「えっ」
僕達がお札の話で盛り上がっていた時、母さんが現れた。ここにいれば、逢えるだろうと来夢は思っていたようだけど思惑どおりになった。やっぱり大学のすぐそばのカフェだけの事はある。
「来夢さん、僕達二人は良いけど来夢さんは一度逢っているんですよね」
「まあ、そうだけど今から五年くらい前の事だから大丈夫よ! それに再会した時も先生は二十五年振りとか言ってたでしょう」
まあ確かにそうだ! ここで来夢に気付いていたら二十五年振りじゃなくて二十年振りという事になる訳だから……
母さんは入口付近の席に座っていた男性と待ち合わせていたようだ。
「あっ、さっき私が見た事があるって言った人!」
「えっ! あれは……」
あれは父さん? いや、雰囲気が違う…… という事は、神谷警備部長……
「来夢さん、あれは」
「うん、警備部長だね。まだ捜査員の頃だろうけど」
「あっ、だから何処かで見た事があると思ったのか」
希美さんもそういうとこは鋭いんだよな…… しかし、あの二人はそういう関係なのか…… でも、それなら父さんと母さんは今後出会わない? それだと……
「響君、タイムマシンへ戻ろうか」
「えっ、確認しなくてもいいんですか……」
「あの二人にマーカーを付けたから、あとはタイムマシンの中で見張れる」
「マーカーって?」
「超小型のドローンみたいな物よ」
来夢が手の平に乗せているマーカーを見せてくれた。なんだか綿ゴミのような……
「それ、どうやって付けるんですか?」
僕の質問に来夢は簡単に説明してくれた。要はこれを飛ばしたらターゲットに付着させて服の色と同じ色になって目立たなくなるという事だ! しかも、スマホで操作出来るとは……
「そういう事だから戻るよ!」
僕は三人分のコーヒー代を支払った後、目立たない場所からファスナーを使ってタイムマシンへ戻って来た。
「やっぱり、郁子先生は警備部長と付き合ってたんだね」
「うん…… 今は何処で何をしているんですか?」
僕はタイムマシンのソファーに寝転んだまま訊いた。
「今は城南プリンスホテルでディナー中よ」
来夢は、僕を見ながら溜息を吐いてそう言った。
まあ、二人でプリンスホテルでディナーなら、まず二人の関係は間違いなさそうだ…… この後、二人で一緒に一晩過ごすような事があったら、もう間違いないだろうな……
「来夢さん、帰りましょう」
もう、これ以上は見ていられない。まあ、母さんが独身の頃の事だから良いんだけど……
「響君、まだよ! この後時代を超えてあなたのお父さんとお母さんが一緒になるかどうかも調べないと……」
「あまり良い気分じゃないですね」
「まあ、そうだね」
「ねえ、それじゃ倉橋が生まれた日に行ってみれば良いんじゃない」
希美さんの一言で、そのまま2006年の6月僕が生まれた病院に来てしまった。
「ねえ、あれでしょう倉橋」
そこには生まれたばかりの新生児が小さなベッドで寝転んでいる。そこに僕だと思われる赤ん坊が手前の小さいベッドで眠っていた。こんな形で昔の自分に出会うとは……
「可愛いね、倉橋」
希美さんはそう言うけど、それは僕なんだけど、僕ではない…… 複雑だ!
「あなた、あの子が響よ」
母さんと父さんが赤ん坊を見に来ていた。
「郁子、あの子は間違いなく僕と君の子供だからね!」
「でも、前の男性と付き合っている期間とあの子を身籠った時期を考えたら……」
「でも、その男は、もういないんだろう!」
「うん……」
「それに僕の子供の可能性だってある訳だから、僕達の子供で良いじゃないか」
凄く意味深な話だ! 母さんが警備部長と付き合っていた期間と父さんと付き合い出した時期、本当のところ僕の本当の父親はどっちなのか判らないようだ。
「ねえ、DNA検査は?」
「調べてどうするの? どっちにしても僕達が育てるんだから」
「あなた…… ありがとう……」
どっちの子かも判らない僕を父さんは自分の子だと言ってくれたんだ……
「響君、帰ろうか」
来夢……
「倉橋、帰ろう!」
希美さん……
「うん…… そうだね」
僕達三人は、タイムマシンで現代に戻って来た。僕と希美さんが部屋に戻って来た時、母さんが戻って来ていた。
「響、何処に行っていたの?」
「えっ、えっと……」
まさか、母さんの過去を調べに行っていたなんて言えない。
「倉橋、映画面白かったね!」
一緒に戻って来た希美さんが機転をきかせてそう言ってくれてちょっと戸惑った。
「う、うん、そうだね……」
「何だ、デートしてたんだ」
母さん、それは……
「でも、いくら便利でも街に行ってたのなら普通に帰って来れば良いのに」
確かに…… まあ、最近はファスナーを使った方が便利で楽だから、つい使ってしまう。
「ねえ響、母さん横浜へ戻るわね!」
「えっ、でも、研究は?」
「今の状況じゃ、どうにもならないでしょう! それに父さんが心配してるから」
「そうか……」
「そんな顔しないの! 研究はちゃんとするし、あなたには希美さんや来夢がいるから大丈夫よね」
はあ…… 勝手だな、まったく…… 希美さんもちょっと呆れてるかな……
「ねえ、未来で何かヒントは得たの?」
「まあね! じゃあ」
母さんはそう言ってファスナーを使ってホテルへ戻って行った。結局、僕のファスナーを母さんは持って行ってしまった……
響の母は未来から戻り、一度横浜へ戻る事にしたようだ。しかし、研究は続けるという事だけど…… しかし、過去の事を知った僕達はあまり母と逢わない方が良いのかも知れない。




