26 来夢のバイト
お待たせしました第26話を更新しました。
響は今日、希美と二人響の母と夕食という事になったけど、来夢も一緒にという事になった…… もう、不安しか無い……
僕達三人は、母さんが泊まっているという城南プラザホテルに来た。ここで四人で食事という事だけど、もう不安でしかない……
「響、こっちよ!」
母さんが手を振りながら呼んでいる。
「あっ、母さん! こちらが希美さんのお姉さんで……」
僕が、そう紹介しようとした時、来夢の顔が下を向き困った表情で顔を曇らせていた。来夢にしては珍しい状況だが、どうしたんだろう……
「あら、あなたは胡桃さんよね」
えっ、母さんは何故、来夢を知っているのか……
「あなたは私と同じ名字だったから覚えているのよ」
えっ、来夢の事を覚えている? ひょっとして今日来夢が逢ったというのは僕の母さんって事……
「姉妹という事は、希美さんも同じ名字なんだ! 珍しい事もあるものね」
これは、僕等を誤魔化しているのか、それとも母さんが話を合わせてくれてるのか、僕は恐ろしくて母さんの顔をまともに見れなくなった。
「あっ、今日は色々とありがとうございました」
来夢の奴も凄く困っている様子だ。
「ううん良いのよ、CO2の分解は、私も興味があってね…… あら響、どうしたの? あなた、ちょっと変よ」
そりゃ、変にもなるよ…… 母さんは来夢の事を何処まで知っているのか? 僕の事をどう思っているのか……
「あの…… 母さん、立ち話もなんだからさ……」
「あら、そうね」
この場はなんとかなったけど、やっぱり来夢は置いてくるべきだった…… 当の本人も後悔しているようだ。
その後、僕達はホテルの中にある『ビストロ城北』というレストランに来た。
「母さんは、何故戻って来たの?」
「うん、私がCO2を研究してるのは知ってるよね」
「うん」
「それで、その研究の手伝いを北山大学にお願いしたんだけど、研究の助手を出来る人を募集して、その人達の面接をする為に戻って来たのよ! あなたも来年からお世話になる大学だろうから」
なるほど、それで来夢が何も知らずに応募したのか。まあ僕は入試に合格すればお世話になるだろうけど……
「さあ、コース料理をお願いしてるから食べましょう! あなた達はお酒を飲むの?」
まあ、来夢も希美さんも大学生だし、来夢なんか未来人のくせにたまに僕の部屋で缶ビールを飲んでるからな…… まあ僕はまだ、あの苦味のある炭酸には興味は無いけど。
「あっ、私はあまりアルコールは、得意じゃないので……」
希美さんはお酒は苦手なのかな…… 希美さんが遠慮してるので来夢も飲まないようだけど、まあ、この状態では無理か……
食事をしながら母さんは上機嫌で二人と話をしている。来夢とはCO2の話で盛り上がってはいるけど、希美さんはそれに相槌を打っている状態だ。希美さんは理系じゃないからな…… しかし、豪華で美味しいはずのご馳走だけど、この状態ではあまり美味しく感じられない。滅多に食べられるものじゃないのに残念だ。
食事も終わり、二人が席を外している時、母さんに訊かれた。
「響、あなたの本命はどっちなの?」
えっ、本命! いや、来夢は未来人だし、希美さんにはまだ何も言えてないからな……
「別にそんなのは考えてないよ!」
「あら、可愛らしい女性が二人もいてなんとも思わないの?」
「取り敢えず、大学に行ってから考えるよ」
「私は希美さんの方が良いかな」
何だよそれ! そういうのは僕が決める事だろう。
「そんなの、母さんが決める事じゃないだろう」
「うん、でも研究の話なら胡桃さんかな……」
いや、人の話を聞いてる? 母さんはどういうつもりなのか、というよりどっちでも良いみたいに聞こえるんだけど……
「響、本当は冬野希美さんよね!」
えっ、突然なに! どういう事? 母さんは急に真顔で話して来た。
「う、うん……」
つい、返事してしまったけど……
「あの二人、姉妹じゃ無いのよね」
「えっと、うん……」
これは、ヤバい、もうバレてる!? 母さんの事はよく解らない時がある。しかし、どうする…… そう思い僕が黙り込んでいると母さんからとんでもない事を言われた。
「胡桃さんはいつの時代から来てるの!」
「えっ!」
母さんは何を言っているんだ!
「なっ、何のこと?」
「あら、私が解らないとでも思っているの?」
母さんは来夢が未来人だと解っていた。それは昔、母さんが若い時に未来から来ていた女性に逢った事があるようなのだ。
「それで、胡桃さんもUFO型のタイムマシンで来てるの」
「うん…… ねえ、本当に母さんだよね!」
まさかとは思うが、疑いたくもなる。舞龍がまたダミーで母さんになりすましているとか…… まあ、母さんからそんな話をされれば疑いたくもなる。
「何言ってるの! 当たり前でしょう」
やっぱり僕が知ってる母さんで間違い無いようだ。しかし、母さんが若い頃に僕と同じような事を経験していたとは……
「母さんは、いつ未来から来た女性に逢ったの?」
「そうね、もう25年くらい前になるかしら、お父さんと一緒になる前の事だから」
その時、希美さん達も戻って来た。
「胡桃さん、あなたはいつの時代から来てるの?」
母さんは何の前触れもなくそう訊いたので、希美さんは驚きのあまり挙動不審に、来夢はあまりに突然過ぎて固まってしまった。
「母さん、いきなり過ぎだって!」
来夢は椅子に座って項垂れてしまった。
「あの、何故解ったんですか?」
来夢のその問いに……
「だって、あなたはCO2と水素を合成させて作った合成燃料の実験をしてるんでしょう! もうびっくりしたわよ」
「えっ、でもそれは研究者は誰でもやっているんじゃないですか」
いや、そうかも知れないけど、この研究は、まだ始まったばかりなはず…… 一人の大学生が単独で研究とか考えられない。
だから母さんも……
「ええ、2050年までに脱炭素社会をという事にはなってるけど、大学生が単独で研究してる人はいないと思うわ、それを出来るのは未来から来たあなたくらいじゃない?」
来夢って、二十一世紀でそんな研究をしてたのか……
「だって、二十三世紀でCO2のサンプルは思っているほど取れないから」
未来はそこまでクリーンになっているのか。百年後とかだと、脱炭素社会が当たり前になっているのか。
「でも、あなたも排出しているでしょうCO2」
まあ、生きていればそうだよな……
「まあ、そうですけど、研究をするにはサンプルは多いに越した事はないので」
二十一世紀にはサンプルが豊富にあるから来夢は研究のために来たんだな。
僕は母さんとはホテルで別れて、希美さんと来夢の三人でアパートへ戻って来た。
「倉橋のお母さんは侮れないね」
希美さんのこの言葉が来夢の胸に突き刺さったようだ。
「あのバイトは私の研究には打ってつけだったの! まさか、響君のお母さんとは思わなかったけど……」
「でも、僕の母さんで良かったよ、これが全然知らない人だったら……」
もう、考えるのも恐ろしい……
母さんはその昔、誰と逢ったんだろう。
「響君、私はタイムマシンへ戻るわね」
「はい」
「明日は早くから響君の部屋を使って外に出掛けるから」
「はい、解りました。大学に行くんですよね」
「うん」
僕も明日は明奈ちゃんの家庭教師の日だからちょっと準備をしないといけない。
あれ、来夢って北山大学の学生って言っていたけど、講義とかどうしているんだろう? こっちで講義を受ける訳にも行かないだろうけど……
その時、来夢のスマホが鳴った。
「もう誰よ! 疲れているのに」
来夢はスマホをとり話し始めた。
「そう、やっぱり部長は人質だったのね!」
えっ、誰から……
「うん、解った」
今度は何が起こったのか……
「どうかしたんですか?」
「うん、部長の容態はあまり良く無いみたいで、病院で入院だって」
「入院? メディカルボックスで良くならないんですか」
「うん、外傷的な事は何とかなるけど精神的なものは時間が掛かるのよ」
「未来でもそうなんですね」
「未来だからって、何でもかんでも便利になってる訳じゃないのよ! 特に、精神的なことはね」
「あっ、それと舞龍達のタイムマシンが、ここから離れた隣町の山中にあったことが判ったわ」
そんな遠くに隠していたのか……
「隣町って橋本市とかですか?」
希美さんがそう訊いたけど……
「橋本市って何処?」
そうか、来夢はこの辺の地形とかは解っているようだけど地名までは解らないようだ。
「胡桃さん、そのうち橋本市とかにも行ってみましょうか?」
僕がそう言うと……
「何があるの?」
いや、別に何があるって訳ではないけど……
「城南市より少しは栄えているかな?」
「ふーん」
僕が来夢とそんな話をしていたら、希美さんが頬を膨らませて僕の事をジッと見ていた。僕は何か悪い事を言ったかな……
「倉橋、私も一緒に行きたい!」
そう言われて、僕も来夢も驚いて希美さんの事を見てしまった。
「希美、三人で行こうね!」
来夢はそう言って壁を開いてタイムマシンへ戻って行った。
「倉橋…… おやすみ……」
そう言って希美さんも壁を開いてアパートへ戻って行った。希美さんは何か怒っていたみたいだけど、どうしたのかな……
響の母は、すべての事を知っていた。来夢が未来人である事を…… 昔、未来から来た女性と逢った事があるとか言っていたけど……




