第八話 君が為に
男の拍手が止んだ。
静寂が辺りを包む中、ディエラは男の首輪へと目を向ける。
首輪の存在を過信していたとはいえ、お父様はこの男にそれなりの価値を見出していた。屋敷の内情を知られることも厭わず、至宝への接近も許していた。
それだけ傍にいながらも、この男は牙を隠し続けていた。
それは同様の経験を持つディエラにとって評価に値する行動だった。
「その殺意を隠して、よく今まで従っていられたものね。見上げた忍耐だわ」
「殺意?」
ディエラの意に反して、男は首を傾げた。先程とは異なり、意図を探るような表情だった。
「別に、当主にもそいつらにも恨みはないよ」
男はあっけらかんと言い放つ。
男の声には誤魔化そうとする響きは無く、どうしてそんなことを聞くのかとでも言いたげな顔でディエラを眺めていた。
それで、これをやったというのか。
ディエラは椅子に並べられた三人へ視線を向けた。
制御塔が消えた手足を拘束し、一見損傷が薄く感じた遺体。改めて外傷を確認すると、影の隙間から覗く拘束された手足の腱や傾けられた頭に覆われた喉元に、一筋の傷跡が伝っていた。
『どう?気に入ってくれた?』
男は仄めかしていた。この光景を見せるために、わざわざディエラを待っていたことを。
その時、ディエラの脳内で最初に感じた言葉が想起された。
”凄惨たる現場にあまりに不釣り合いな弟妹達の遺体、不自然に傾いた空席の椅子、そしてわざわざ閉められた扉”
”これは────贈り物”
この光景を見て第一に浮かんだ言葉。男の登場によりその分析を深く行う前に、思考を切り替えることになった。
ディエラの思考が出揃った情報の中から最悪の仮定を積み上げる。
「普通の人は嫌いな相手が死ぬ時、苦しんでほしいって思うものなんでしょ?」
男は何でもないことのように尋ねる。その口元には笑みが戻り、ディエラの仮定が確信を帯びていく。
「だから、すぐには終わらせなかったんだけど」
男の言葉につく枕元を受け入れられずとも、男の声色が嫌でもその存在を匂わせる。
まるで───




