第五十三話 緘黙の焔
やはり、男の確保は最優先事項だ。
レイヴンに価値を見出され、手元で囲われてしまえば、今のディエラではどうすることもできない。男自身へ近づくにも、レイヴンの目を避けるという最上級の難関ミッションが待っている。
ひとまず、フィエルテに任せた捜索の吉報を待つほかないだろう。
ディエラは細く息を吐くと、ソファーの背もたれへと身体を預けた。
フィエルテからの報告を待つ間、ディエラが今できることを思案する。動けなくても、ただ時間を無駄に過ごす気は無いらしい。
新聞から得た情報の使い道。新たに接触する価値のある相手。そして、明日の聖女候補との出会いを、ただ顔を確かめるだけでは終わらせないための手段。
儀式に同席するのが彼女だとしても、都合よく二人きりになることはできないだろう。候補としての立場も、周囲との関係性も、実際に見て判断する必要があった。
ディエラは膝の上で、ゆっくりと手を組んだ。
情報を得たことで、考えることは格段に増えた。未来を知っていて、動かせる人材がいるとしても、手間が回帰前より少なくなる保障はない。
それでも、不思議と不快な気分にはならなかった。
自分で選び、手を伸ばし、先回りして一つずつ逃げ道を潰していく。その先で、誰に何を失わせるかを決めるのも、采配はディエラの手の中だ。
テーブルの上には、まだ使い道を吟味している情報が詰まれている。
ディエラは身を起こすと、その中の一部へ手を伸ばした。
*
窓から差し込む光が傾いた頃、扉を叩く音がした。
「お嬢様。フィエルテにございます」
「入りなさい」
フィエルテが扉を開けると、ディエラは足を組んだまま、新聞の束を片手に持っていた。
その端を、炎がゆっくりと這っている。
重なった紙が縁から黒く縮れ、徐々に形を失っていく。燃え崩れた欠片も床へ落ちる前に炎へ呑まれ、灰を残さず消えた。
フィエルテの足が、入り口で止まる。
炎は新聞だけを包んでいた。紙を持つ指にも、その傍の袖口にも燃え移ることなく、紙の輪郭に沿って範囲を狭めていく。
ディエラは鏡台の前にいたときと変わらない顔で、残った紙面へ目を落としていた。
魔力の扱いを本格的に学ぶのは、学園へ入ってからである。二大公爵家では発現に合わせて教師を付けるが、かつてのディエラはまともに教えを受けた経験が殆どなかった。
レイヴンの関心を求め、勉学に励もうとしたことはある。魔法の練習も、人知れず行っていた。
だが、教師に弟妹たちとの差を指摘され、怒り狂ったディエラが教師の髪を鷲摑みにする。テンで授業にならないことなど、珍しいことでは無かった。
そのディエラが今、鍛錬を重ねた熟練者のように魔力を操っている。
その理由をフィエルテは知らない。尋ねることもしないだろう。
ただ、ディエラの立ち姿と揺れる炎の美しさに、目を奪われていた。
フィエルテの視線が留まっていることに気が付くと、ディエラは顔を上げた。
※回帰前の話数が想定以上にかさんでしまったので、内容を圧縮し、あぶれたものを番外編集(後に制作します)に移すことを検討中です。他案ございましたら、ご意見いただけると幸いです。




