第五十四話 鬱蒼の晩餐
「思ったより早かったわね」
ディエラの声で、フィエルテははたと我に返った。
「お待たせいたしました」
フィエルテは忘れていた瞬きを数度行うと、静かに進み出た。
その間にも、新聞の束は少しずつ薄くなっていく。最後に残った一片を焼き尽くすと、ディエラは何事も無かったように、指先を二度払った。
「こちらが報告書にございます」
フィエルテは盆をテーブルへ置くと、ディエラの傍らで膝をついた。携えていた書類を、両手で差し出す。
ディエラは受け取った書類の一枚目を捲った。所在地と管理者が、条件ごとに整理され、指定と僅かに異なる者は追記にて纏められている。
余計な装飾も、読む手間を増やすような無駄な要素もない。シンプルだが、一目で分かりやすい報告書だった。
ディエラが受け取り、内容を確認し始めたのを見ると、フィエルテが立ち上がった。
使い終えたカップを下げようと伸ばした手が、一瞬止まる。空の内側へ目を落とし、それから静かに盆へ乗せた。
ディエラは書類越しにその動きを見たが、何も言わず再度書類に視線を戻した。
ここ数年、フィエルテの入れたお茶を、カップごと払い落とすことはあっても、こうして飲み干すことは殆どなかった。内側の二筋の線が、早々に飲み干したことを表している。
フィエルテは、新しいカップへ紅茶を注いだ。
立ち上る香りを感じながら、ディエラは次の紙へ指を掛けた。
「これを読み終えたら、夕食にするわ」
「畏まりました。ご夕食は、こちらで召し上がりますか?」
紙を捲ろうとしたディエラの腕が、僅かに止まった。
自室で食べるようになったのは、この頃からだったのね。
ディエラは、一瞬目を伏せた。
夕食は、家族が揃う時間だった。朝や昼に姿を見せないことのあるレイヴンも、夕食時には必ず同席していた。
エリノアたちがその日の出来事を話し、フィオルナが微笑む。レイヴンも言葉を返し、時には成果を褒め称えた。
ディエラだけが、その輪の外にいた。
同席しても、ディエラの皿に異物が混じることはもはやお決まりだ。訴えれば顔を顰められ、使用人を咎めれば、また騒いでいるという一言で片づけられる。
それでも、最初の頃はレイヴンが目を向けていた。
失跡であろうと、名前を呼ばれたことでディエラは存在が認められたような気分だった。
だが、やがてレイヴンはそれすらもしなくなった。
ディエラが何を言っても、視線はエリノアたちから動かない。まるで空気のような扱いだった。
そのうち席を外すよう命じられるのではないか、と直接拒絶されることを恐れたディエラは、食堂へ向かう足が鈍るようになった。
結局、その言葉を聞く前に、ディエラ自身が自室で食事をとる道を選んだ。
それを、引き留める者も、理由を尋ねる者も、誰一人としていなかった。
更新方法について模索中です…。
同時刻に複数話更新するか、時間を分けて更新するか。
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