第五十二話 枯死の波紋
ディエラは新聞の束から一部を抜き取った。
一昨日の紙面の隅には、他国の戦争を扱う短い記事が掲載されている。
敵兵を次々に屠る戦士を、人々は死神と呼んで畏怖しているらしい。
実際にどれほどの働きをしたのか、この記事だけでは分からない。読者を引き付けるために、話を大きくしている可能性も大いにある。
だが、その異名は、数年後にはあの男を指して囁かれるようになる。
初めて耳にしたディエラは、大袈裟な呼び名だと嘲笑した。人を殺す才能に長けている者は、裏社会で珍しくはない。わざわざ代名詞を借りて畏れるほどの者かと、対して気にも留めていなかった。
だが、レイヴンを調べていくうちに影の存在へ辿り着き、その内情を探るようになってから、ディエラの考えが変わった。
把握できた暗殺に、ただの一度も失敗が無い。
厳重な警備も、標的が抱える護衛も、結果を変える術にはならない。命令が下されれば、抗いようがない運命かの如く、標的は死に至る。
残される痕跡が少なすぎて、手口さえ掴めないことも珍しくは無い。だが、その手際の良さがかえって誰の仕業なのかを導き出していた。
死神が動いた。
そう囁かれるだけで、人々は恐れ戦く。
あの夜を経た今のディエラは、身をもって理解していた。化け物と呼ぶにも生温く、その異名は単なる誇張ではないことを。
ディエラの指が、記事の端を押さえる。
裏の世界では、死神の名を知らぬ者は居ないほど知名度を轟かせていた。死神を従えるレイヴンへ、迂闊に手を出す者は居なくなった。
ヴァルディアという家の力も、レイヴン自身の実力もトップクラスだ。ただ、それを差し引いても、レイヴンの地位をさらに押し上げたのは、死神の活躍あってこそだった。
ふと、ディエラは思い出した。男の働きが目に付くようになってから、レイヴンは以前より上機嫌な日が増えていた。
当時のディエラは、その理由を正しく捉えられていなかった。レイヴンの機嫌が良ければ、自分の言葉にも耳を貸すのではないと考えたことさえあった。
ディエラは自分の情報収集の甘さを痛感し、持っていた新聞を再度テーブルへ放り投げた。




