第五十一話 追憶の茶葉
窓の外へ目を向けていると、扉を叩く音がした。
入室を許すと、盆を携えたフィエルテが姿を現す。
「お待たせいたしました。こちらが、ここ一週間の各社の新聞と、紅茶にございます」
テーブルに束になった新聞が置かれる。発行日ごとに仕分けられ、同じ日付のものは纏まって重ねられていた。
その傍らにカップが添えられると、紅茶の上品な香りが辺りに広がった。
「もう下がっていいわ。私が目を通す間、貴女は調査に専念なさい」
「畏まりました」
フィエルテは盆を抱え直すと、一礼して部屋を後にした。
ディエラは窓辺を離れ、テーブルの前のソファーに腰を下ろす。
カップを持ち上げ、紅茶を一口含む。軽やかな香りが鼻を抜け。程よい渋みが下に残る。好みの濃さに淹れられた一杯に、ディエラは一瞬目を見開いた。
お茶を淹れる腕も、悪くない。
カップを戻す前に、空いた手で一番上に置かれた新聞を取り上げた。まず日付を確かめ、それから紙面へ目を通す。
貴族の婚約、夜会で交わされたという密談、商人同士の諍い。目立つ見出しの多くは、人の関心を煽るように書かれている。
過去のディエラはくだらない与太話だと一瞥もしなかったが、今は違う。
婚約が解消された家の名から、その後に起きた騒動が紐づいて思い起こされる。新たな事業を讃える記事を読めば、それが長くは続かなかったことが記憶に浮かんだ。
当時は別々の出来事として聞き流していたものが、日付を伴って並んでいる。記憶の整理において、これ以上ない媒体だった。
ディエラは読み終えた新聞を脇に置くと、次の一部を開いた。
*
最後の紙面に目を通し終えると、ディエラは新聞をテーブルへ放った。紙が擦れ、乱雑に重ねてあった束の端が僅かに崩れる。
時計へ目を向けると、読み始めてから二時間ほどが経っていた。
ディエラは背を伸ばし、肘掛けに腕を置いて頬杖をつく。
記事の大半は噂話の域を出ないものが殆どだ。それでも、得られたものは十分にある。
曖昧だった出来事の前後関係が繋がり、忘れていた名も幾つか思い出した。正確な時期を覚えていなかった記憶にも、ようやく目印ができた。
そして、あの男についても。




