第四十五話 忠臣の至福
「今から言う男の特徴を覚えて、所在地と管理者をリストアップしてちょうだい。黒髪で、瞳は金色。細身で顔立ちは中性的」
ディエラは、記憶に残る男の容貌を順に伝えた。
フィエルテは櫛を下げたまま、静かに聞いている。紙を取りに行く様子も、相槌で言葉を遮ることも無い。
「奴隷か孤児の可能性が高いわ。まずは、ヴァルディアの息がかかっている奴隷商と孤児院を優先しなさい」
既にお父様の配下にいるなら、引き取られた記録が手掛かりになる。まだそうでないのなら、お父様が駒を集める箱から捜す方が早い。
闇魔法を条件に入れるつもりはない。お父様ですら知らなかったのだ。今の男が人前で使うとは思えない。
「本人への接触は不要よ。条件と少し異なる者は、別でまとめておいて。くれぐれも、屋敷の者や相手にも気付かれないように」
「承知いたしました」
伝えられる容貌は、あくまで五年後の姿を軸にしたものだ。髪や瞳の色は変わらずとも、顔立ちや体格には違いがあるだろう。条件を固定化して、見落とすことがあってはならない。
フィエルテは、内容を聞き返すことも確認することもせず、静かに頭を下げた。
ディエラは一度目を伏せ、伝えた条件に漏れがないかを脳内で確かめると、再度鏡の中のフィエルテを見据える。
「・・・と、まぁ、こんなものね。明日の朝には間に合うかしら?」
語尾に疑問符をつけておきながら、その眼差しに懸念はない。出来ることを前提とし、期限の回答を求めていた。
フィエルテは、顔を上げると、真っ直ぐにディエラを見つめた。
「今夜までには調査結果を揃え、ご報告に上がります」
ディエラの口元に、満足げな笑みが浮かんだ。
淀みのない答えが虚勢ではないと理解しつつも、高めに上げたハードルをいとも容易く乗り越えたフィエルテへの称賛だった。
「そう。期待してるわ」
フィエルテは改めて一礼すると、再び櫛を持ち上げた。




