第四十四話 再誓の初陣
ディエラの脳裏に、金色の瞳が浮かぶ。
あの男。
後回しに出来ると考えていたが、居場所だけは先に突き止めておく必要があった。
男が復讐を知ったのが偶然だったのか。いつから私を見ていたのか。あの夜、なぜ行動を起こしたのか。
無駄なお喋りはしていたくせに、肝心なことは明かさなかった。
だが、ディエラが動くより先に手を打たれていたことは確かであり、それを二度も繰り返させることだけは何としても避けなければならなかった。
既に屋敷にいるのか。それとも、まだお父様に拾われてもいないのか。
影に属する者の多くは、奴隷商か、孤児院から引き取られていた。
ヴァルディア家には、精強な騎士団もある。ただ、その中から引き抜けば、顔も名前も辿られてしまう。
影に求められているのは、腕だけではない。
その者が消えたところで、探す身内も、行方を気にする者もいないこと。要するに、守るべき人がないことが条件だった。
生まれや名前を捨てさせるには、初めから何も持っていない人間の方を選ぶのが道理だ。
ディエラは、さらに記憶を辿った。
男を意識するようになったのは、影の隊長に就任してからだった。それ以前について、過去の私は確かめていなかった。
首輪を着けて命令に従う従順な人間を、一体誰が疑えるというのか。
だが、過去の私がお母様の死の真相を知り、動き始めたことで気づかれたのだとしたら、それが一つの目安になる。
ただし、それは男が回帰していないことが前提だ。
もし、あの音があの夜を覚えていたら...
そう考えるだけで、ディエラの指先が冷えていく。
ディエラだけが戻ったという確証がない。男が回帰に関わっているかどうかは別として、その可能性を捨て置くべきではない。慎重すぎる考えだが、対男相手には、疑い続けることが賢明だとディエラは知っていた。
まずは、見つける。
お父様の配下にいるなら、その立場を。まだいないなら、今のうちに接触する方法を模索する。
「フェル。最初の仕事よ」
櫛の動きが止まった。
フィエルテは櫛を一度下げると、鏡越しに主人の目を見つめた。
「何なりとお申し付けくださいませ」




