第四十一話 帰依と感涙
扉を叩く音がした。
「お嬢様。フィエルテにございます」
「入りなさい」
身支度の道具を携えたフィエルテが、静かに入室する。
サイドテーブルに盆を置き、湯で温めた布を手に取った。その一つ一つの無駄のない動作を、ディエラは黙って眺めていた。
「お顔をお拭きしてもよろしいでしょうか?」
ディエラは、返事の代わりにゆっくりと目を閉じた。
頬へ温かな布が触れる。押し付けることもなく、擦ることもなく、丁寧に肌を撫でていく。
何を言われても、何をされても、彼女の仕事が粗雑になることは無かった。
お母様に仕えていた頃も、その死後も。
それを忠誠と一括りにするには、あまりにも盲目的だろう。彼女の忠誠心を疑っているわけではない。ただ、忠誠心とは別に、お母様を守れなかった負い目が含まれていることは何となく察していた。
だが、罪悪感に耐えさせるためだけに傍に置くつもりはない。
「フェル」
「はい、お嬢様」
「今まで、随分と見苦しい姿を見せたわね」
布の動きがピタリと止まった。
ディエラが目を開けると、フィエルテの瞳が、すぐ近くでディエラを見つめていた。
「お母様が貴女を傍に置いた理由が、ようやく分かったわ」
フィエルテは何も答えなかった。
ただ、布を持つ手が僅かに下がり、主人の言葉を謹聴している。
ディエラは、その瞳を真っ直ぐに捉えた。
「その忠誠、今一度私に預けなさい。お母様の娘として、不甲斐ない醜態を晒すのはお終いよ」
フィエルテの唇が微かに開いた。
だが、言葉になるより早く、ディエラが続ける。
「貴女には特等席を用意してあげる」
お母様が遺した彼女を、今度こそ使い潰すことなく傍に置く。
何も知らないまま失った、かつての私とは違う。
「最後まで、私の側で見届けなさい」




