第四話 深まる謎
「ただ強いだけじゃ難しいでしょうね。これだけのことを、誰にも邪魔されずに済ませるのは」
ディエラは脱線する前の話を引き戻した。
男は挑発に乗らなかったことを残念がるように軽く肩を竦めると、ディエラの推理を楽しむように黙って話に耳を傾けた。
「でも、内情を知っていて、夜中に歩き回っても怪しまれない者なら?」
死神というのはあくまでも異名。その正体はヴァルディア家当主の直属部隊の隊長。影という名に相応しく、表向きには公表できない裏の業務を担っている。
その隊長であれば、三人へ近づくことも、警備を遠ざけることも可能だろう。警備の配置や移動、死角となる瞬間も知り得ている。元より首輪を見せれば、その行動を疑う者はいない。
「影の隊長ならそれが可能だわ」
ディエラは男に視線を向ける。確信めいた瞳に捉えられるが、男は表情を崩さない。
「それじゃあ、裏切りの証明になってないよ」
男が首元に手をかけた。声から動揺は感じ取れない。
「《祝福》だっけ?これの説明はどうするの?」
男の人差し指が、首輪を数回弾いた。厚く鈍い音が広間に響く。
ヴァルディア家の紋章を刻んだ首輪。金具は硬く閉じられ、中央の魔法石にも目立った傷は見当たらない。それを着けたまま主人の子どもに手をかけるなんて、本来ならあり得ない。
ディエラには、目の前の男がどうやって父の命令に背いたのか分からなかった。
けれど、そうなら納得がいく。
祝福を受けるにおいて必要なのは、まっさらな人格だ。生物の持つ恐怖心やトラウマを操作することで、元の人格を抹消させる。その上で新たな人格を授ける。祝福の名の由来はそれだ。
新たに授けられた人格には主人の存在と主人に対する不動の忠誠心が刻まれており、万が一にも反抗することが無いよう、感情の抑制が施されている。中央の魔法石は洗脳が弱まることが無いよう、重ねて精神操作魔法が埋め込まれているという構造だ。
もし、この構造に欠陥が生じていたら?魔法石が効力を発揮せず、何かのきっかけで祝福が消えたとしたら...
だが、それではどうも腑に落ちない。




