第三十話 索然の境地
フィオルナの悲鳴が、広間に響き渡る。
子ども達の名前を呼び、許しを乞い、次の瞬間にはディエラを罵る。涙に濡れた顔は歪み、もう言葉の筋さえままならなくなっている。
その姿を眺めながら、ディエラの表情から笑みが消えていく。
これほど苦しんでいる。立つこともできず、娘の痛ましい姿から目を逸らすこともできない。
それでも、私の心は満たされない。満足感や脳に染み渡る多幸感も、所詮一時的なものだ。
ディエラはエリノアの頬に添えた手を見た。
この顔を動かしているのは私だ。フィオルナに希望を見せ、ここまで歩かせたのも私だった。
だが、エリノア達は違う。
母が目の前で壊れていっても、それを見ることも感じることもできない。
この子達がどうやって死んだのかを推測はできても、実際に見てはいない。どんな気持ちで、どんな顔で、何を奪われて死んだのか。それを私が知る術はない。
…いや、違う。そもそも、知るという前提で考えることすら間違っている。
守れると信じていた存在を失い、その確固たる自信に溢れた自尊心を折られ、自分が踏みにじってきた相手に、何もかもを奪われる。その痛みを与えるのは、私のはずだった。
私が見るはずだった。私が用意するはずだった。死の眼前で笑顔を浮かべるのは、私のはずだったのに。
視線を上げると、少し離れた場所で、男が愉しそうにディエラを見つめていた。
この広間も、並べられた死者も、全てあの男が用意した産物。
私はその上で、残されたものを使って遊んでいたに過ぎない。
…目を逸らしていたのは私の方ね。
気づいた途端、ディエラの胸の熱が嘘のように消えていく。
あれほど見たかったはずの反応が、急に陳腐なものに見えた。
フィオルナが何を叫んでいるのか、聞き取る気も消え失せた。
もう、無理なのだ。
何を足しても、望んだ結末にはならない。
目を覚ました時には、すでに手遅れだった。
あるいは、もっと前。あの男に憎悪を知られ、手を出す隙を与えたときから。
その事実から、私は目を背け続けた。気晴らしだの何だのと体よく名前を付け、大袈裟に怒ってみたりもした。何かを考え、他の感情を増幅すれば、そのことを考えずに済んだから。
私の本来の目標は一割も達成できていない。お母様の死について尋ねたことが、今夜唯一私の手で成し遂げられたことだ。それも、大半が虚実の薄っぺらい作り話。
全ては、私の失態だ。
もう、何もかもが
「どうでもいい」




