第二十七話 露見する虚妄
「さあ、どうぞ」
ディエラの目尻が柔らかく下がる。その奥に浮かぶ愉悦にフィオルナだけが気付かない。
月明りの中に、三人の姿があった。
移動した影が三人の輪郭を鮮明に映し、その顔にだけ覆い隠すように陰りを帯びている。
静かに椅子に並べられる子ども達を見た途端、フィオルナの顔が明るくなった。
「ああ……!」
息を漏らし、フィオルナは一目散に走りだす。
ディエラはその様子を黙って見つめていた。
男もレイヴンも、その場に残ったままだった。ただ、かろうじて動かせるレイヴンの瞳が、三人を捉えた瞬間に僅かに開いた。
「レックス!ロイ!エリノア!!」
フィオルナの声が広間に響き渡る。
「私の可愛い……子ども、たち……?」
軽快に弾んでいた足取りが、急激に沈んでいく。
抱きしめようと広げたフィオルナの腕は、行き場を失くしたようにゆっくりと落ちていく。
愛する母の呼びかけに、三人が応じることは無い。
近づいたことで、見えてしまった。
青白い頬。動かない身体。力なく傾いた首。光を失った瞳。
フィオルナは受け入れ難い事実を必死に覆そうと、ふらついた足取りでエリノアへと手を伸ばす。
「……エリ、ノア?」
ただの肉塊と化したそれは、音に反応する術を持たない。
フィオルナの膝がガクンと崩れ落ちる。床に座り込み、立ち上がる気力さえ残っていなかった。
その背後から、靴音が静かに近づいてくる。
カツン、カツン、と。急いた様子の無い靴音は、フィオルナの前でピタリと止まった。
ディエラは優雅な手つきでドレスの裾を片手で寄せ、膝を床につけずに腰を落とした。曲げた膝へ肘を置き、頬杖をつく。
フィオルナより少し高い位置で止まると、とびきりの笑顔を浮かべた。
「どうしたの?抱きしめてあげたらいいじゃない」
フィオルナの唇が、何度も開いては閉じてを繰り返す。息ばかりが漏れ、なかなか言葉にならないらしい。
「な、んで……あなた...だって、生きて…いるって......」
「ええ。言ったわね」
ディエラは、あっさりと認めた。
フィオルナの瞳が揺れ、震えた手でディエラに掴みかかろうと手を伸ばす。
「何を怒っているの?貴女が先に始めたことでしょう?」
ディエラは首を傾げた。その表情には、もう笑みなど浮かんでいない。




