第二十五話 興味の変貌
「────安心して」
明るい声が、静かな部屋に響いた。
「レックス達は、生きてるわわ」
男の手が止まる。
顔を上げたその先で、ディエラがフィオルナへ微笑んでいた。
眉間の皺は消えていた。少し下げた目尻も、柔らかく緩めた唇も、子を案じる母親を慰めているようにしか見えなかった。
「…本当?」
「ええ」
ディエラの頷きに、フィオルナの表情に心からの安堵が浮かぶ。
その穏やかな横顔を、男は見つめていた。
レックス達は死んでいる。彼女はそれを自分の目で、確かに確認した。並べられた三人を前に、殺害方法まで思案していたはずだった。
その目で、その口で、生きていると宣った。
フィオルナは安堵の息を吐き、強張っていた緊張が一気に和らいでいく。泣き出しそうな表情でディエラを仰ぎ見るその瞳から、恐怖は消えていた。
ディエラはその表情を微笑んだまま見届けている。
男の指が、短剣から離れた。
冷めかけていた胸の奥に、再び熱が灯る。
母の死に心を乱した。それは、間違いではなかったのかもしれない。
だが、そのまま崩れる女ではなかった。
「拘束を解いて差し上げて」
自分の浅慮な考えが驕りだと嘲笑うように、ディエラの変わらない微笑みが自分へと向けられる。
「あの子達に、会わせてあげなくちゃ」
慈悲深いこの笑みを浮かべる彼女の真意を、誰が疑うだろう。
それほどまでに、慈愛に満たされた完璧な笑みだった。
男は入室時と同様に指を鳴らすと、椅子の脚元で影が揺らめいた。
フィオルナが身を捩ると、今度は腰が椅子から離れた。レイヴンも自分の腕が動くことを確認しながら、その意識は足元へと落ちる。
男は二人を気に留めず、畏まった様子でディエラへと向き直った。
胸に手を当て、仰々しく頭を下げる。
「了解。僕のディエラ」
顔を上げたとき、その金の瞳には、もう隠しようのない愉悦が戻っていた。




