第二十三話 あの日の真実
「……分かったわ」
掠れた声で答えたフィオルナが、隣へと目を向ける。
自分を愛し、隣国の王女を捨ててでも自分を選んだレイヴン。瞳に憂いを滲ませればその行為の元凶を排除し、私に傷をつけようものなら子々孫々を記録から抹消した男。
そう、そうよ。この状況を彼が許すはずが無いわ。
フィオルナが助けを求めるように見つめたその先で、レイヴンの瞳はフィオルナではなくディエラを映していた。興味深そうにディエラを眺める瞳の下で、口元には薄っすらと笑みを浮かべている。
「レイ…?レイヴン…?」
愛称で呼んでも、名前で呼んでも、レイヴンが振り向くことは無い。期待に孕んだその瞳が、自分以外に向けられることはあっても、名を呼べば振り返った。
それなのに、レイヴンは私に見向きもしない。まるで聞こえていないかのように、一心にディエラだけを見つめている。
ディエラの指が、腕の内側で不服そうに動いた。
「私が、聞いているのだけれど」
フィオルナは慌てて我に返り、弾かれたようにディエラへ顔を戻した。
かつて、あれほど粗雑に扱った少女が、屋敷内のヒエラルキーを覆し、場を掌握している。
手玉に取り、弄んでいたディエラの感情が、読めない。
フィオルナは水分の蒸発した乾いた唇を震わせる。
「あの時…」
声が途切れる。
言い訳を続きかけて、ディエラの目を見た。
言葉を止めたことを咎める様子は無い。だが、その瞳は、全てを見透かしているようだった。
「私が…」
怯えを抑えるように肘掛けを握り直し、フィオルナは震えた声で、あの日のことを話し始めた。
*
「……そう」
フィオルナが話し終えると、ディエラは短く呟いた。
少し俯いた顔を、髪が覆った。
お母様の声は、ほとんど覚えていない。抱かれたときの温もりも、どんな顔で名前を呼んでいたのかも、思い出そうとするほど遠ざかっていく。
だが、フィオルナが発した、最後まで自分を案じていたという母の姿。言い訳の間に零れたお母様の姿は、容易に想像できた。
ディエラの眉間に、深く皺が寄った。
組んだ腕の内側で、何かを嚙み締めるように、指を強く握り込む。
男がその顔を眺める表情に、笑みは無かった。




