第十七話 軽快な心象
やがて、ディエラが視線を動かした。
男はその様子を黙って見つめる。当たり前のように、ディエラの瞳が自分を映すことを想像していた。
だが、ディエラの目はその下、男の首元で静止した。
男の笑みが、僅かに薄れた。
こちらを見たと思ってたのに、その目は首輪へ向いている。彼女の瞳が自分を映していないことではなく、自分を通して別のモノに関心を向けていることが、妙に気に障った。
男は首輪に指をかけ、金具の継ぎ目をなぞった。
こんなもの、壊してしまおうか。
男が指先に魔力を流した瞬間、ディエラが口を開いた。
*
「新しい飼い主はどこ?」
「…飼い主?」
お父様の命令ではなく、その上、この男自身にも、三人を殺すほどの恨みはないと言っていた。
ならば、背後にいる人物は誰なのか。
ディエラは男の顔へと視線を上げる。男はディエラと目が合ったことで、その瞳を僅かに細めた。
私への贈り物だという言葉を鵜呑みにするほど、男との関係性は深くない。私の反応を見たいがためというだけが、この惨劇を企てた動機だとは考え難い。
男は首輪から手を離した。
「うーん」
首を傾げて、少し考えるようなそぶりを見せた。男の視線は相変わらずディエラを捉えて離さない。
「強いて言えば、君かな」
男の瞳が怪しげに弧を描き、それに反してディエラの眉は不服そうにピクリと動く。
ほんの一瞬の動きだったが、男が見逃すことは無かった。
ディエラの見せる反応なら、男は嫌悪でも苛立ちでも構わなかった。首輪の向こう側にいる誰かではなく、今の言葉を口にした男へと向けられた反応に、苛立っていた気分が消えていくの感じた。
ディエラ はその様子を見て、男が素直に話す気が無いのだと理解した。
何でも答えるといったその口で、またもや戯言を抜かす。
どうやら、この男は暗殺技術だけでなく、人を煽る才能にも長けているらしい。
ふと、ディエラの脳裏に男の言葉がよぎった。
「主人に噛み付くような犬は要らないわ」
吐き捨てるように告げた言葉に、男は目を見開いた。
『主人に嚙み付くような犬なら要らないや』
私に投げたはずの言葉が、嘲笑付きで返ってくるとは、男は思いもしなかったらしい。




