第十五話 増長する仰望
ディエラは男の顔を見つめていた。
口を動かす前に身をもって理解させる。説明しているうちに二重の苛立ちが募り、起こした行動だったが、意外にも男には効果的だった。
これで理解できるなら、もっと早くやるべきだったわね。随分と無駄足を踏まされたわ。
彷彿とした苛立ちの半分は、その余韻を残しつつ失せていく。
問題はもう半分の方だった。
話を進めるにつれて、ディエラの脳内にある疑問が浮かんだ。
何故、私はこの男にこんなに懇切丁寧に説明しているのだろうか。
これまでの行動の全てを無に帰す疑問だが、それもまたディエラの本心だった。
三人を勝手に殺し、贈り物だと言ってのけた男の望みを叶えてやろうとしている自分自身への苛立ちだった。
だが、その口がディエラの機嫌を損ねないよう、次の言葉を探している様子は、無様であり滑稽で、その様子を見届けると少しばかり気が晴れた。
ディエラはもう一度、差し出されたままの手へと視線を落とした。
「殊勝な心掛けね。ただ、エスコートがなってないわ」
ディエラは再度テーブルに浅く腰掛けた。
傍らにはロイが腰掛け、ディエラを挟むような形でエリノアが向かい合わせに腰掛けている。ディエラはそれを気にすることなく、ドレスの裾を整えると、顔を上げて男に行動を促した。
*
男はその姿を眺めた。
首筋の血にも、傍らの死者にも構わず、こちらの応対を待っている。その姿を見ているうちに、この舞台を用意したのは自分のはずなのに、その主が彼女なのではないかと思えてきた。
男は自嘲するように笑い、ようやく腕を下ろした。
見誤っていたと、何度思えば気が済むのだろう。
姿勢を正し、右手を腰に添えた。そのまま従者を真似るように一礼した男は、空いた左手を改めてディエラに差し出した。
「これでどう?」
ディエラは、その手を冷めた目で一瞥した。
「お粗末ね。犬に任せた方がまだマシだわ」
男の返事を待たず、ディエラは腰を上げて独りでに歩き出した。
ドレスの裾が、男の差し出した手の前を通り過ぎ、そのまま遠ざかる。
男は、またも残された手を見下ろした。
自分から求めておきながら、応じれば気に入らないと払いのける。死神なんかよりよっぽど質が悪いじゃないか。
僅かに眉が動いたが、引き戻した手を握る頃には、もう男の顔に笑みが浮かんでいた。
腹立たしさはあった。
それなのに、不快よりも興味が先行していく。
男が遠ざかる靴音へ顔を向ける。
次に何を言うのか、今度はどんな顔をするのか。
先程よりも気になっている自分に気付き、男は小さく喉を鳴らした。




